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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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「あっちは魔族だから身体能力も高いのに加えてあの技量だから強いですね。頼りの魔剣の能力まで通じないとなると、私では無理だった」
「魔族っていうのが手強いところっすね……。あたし、そいつに勝てそうに思えますか?」
 つい最近妖刀を持った魔族と戦って瀕死の重傷を負った黒羽は強くうなずきつつ、魔族の頭領との実力差を訊ねる。
「剣の技でいうと向こうが一枚上手、やもしれません。だが、私のは二級、そちらは一級で剣の等級が違う。ふたりがかりでいけば、勝てる見込みは十分あります」
「捕まえるのはあたしと課長の連携でってことっすね」
 一対一で危険ならばそれが最も賢いやり方だろう。しかし、ひとりで魔族相手に勝てるだけの力量も欲しいところだ。
「そういうことです。わざわざ本局からきていただいたのに、こちらの支局員でも手が足ることで申し訳ない。あの妙な剣がなければこちらだけで対処できるのですがね……」
 妖刀魔剣の力を無効化する奇妙な剣を盗賊頭は所持していたいた。
 妖刀魔剣は瘴気の凝ったもので、有する力も瘴気が混じっていてそれを無効化するというのは瘴気を浄化する神剣と似ている。だが神剣とも違うというのが直接対峙したアマン課長の見解だった。
 魔族の能力であれば漓瑞が瘴気を浄化する水を操るのだが、魔族の能力ではないのは確からしい。
「その変な剣のこと、もっと詳しく教えて下さい」
 照りつける陽光を凌ぐため、柱廊の庇の影へと移りながら黒羽はアマン課長に報告書だけでは頭に入りきっていない剣のことを問う。
「最初に剣を打ち合わせたときから変なかんじがしたんだよ。ほら、こう妖刀とか魔剣とか独特のもんがあるでしょ。こりゃまずいと思って、相手に使われる前に先に魔剣の能力を使ったんですよ。あ、こいつは氷の塊を飛ばすんです。だけど、放った瞬間ぱっと氷が全部消された。あれは火でも水でも風でもなかった。何度か試したが駄目で、剣と剣の勝負になった」
 現場には複数の魔族がいて、他の局員はそちらにかかっていたがそれすら捕まえることができないほどに盗賊頭は全員を逃すべく立ち回ったという。
 そして局員側に負傷者はいても死者は出さなかった。
 混戦状態の中でそれだけ護るべき者は護り、無駄な殺しもしないという見事な動きは現場で相対した当事者から実際にきくとますます実感をもって凄さが伝わってくる。
「魔剣の能力を打ち消すときに何かを発動させてるかんじはあったんすか?」
「そう、それなんですよ。瘴気みたいにも感じるが、ただ神剣のこう雰囲気というかそういうのもあって、あんな剣は見たことも聞いたこともない」
 聞けば聞くほど奇妙な剣である。
「使い手の魔族はこれといって特徴はなかったんでしたっけ」
「みんな顔隠してて夜だったからな。ほとんど口も聞かずに統率は見事に取れてた。頭は印象は若かったんだが、魔族ですからねえ。報告書にも書きましたが、百にはなってないでしょう。他の奴は歳くってるのもいれば若いのもいたか」
 若い頭目と他の魔族達。統率の取れ具合から寄せ集めの集団というわけでもなさそうだとは、報告書にあった覚えがある。
「それだけの集団が最近になって盗難始めたっていうのも、変な気もしますね」
 ここ一年ほどで過去に似た事件もなかったはずだ。
「そうなんだよな。類似した事件も過去の捜査資料漁ってみたが出てきてないんです。ただの窃盗団にしちゃ盗品も手口も、頭も何もかも変な事件だ」
 アマン課長が事件を振り返りその特異性に首を捻る。
「それだから、あたしらが調査にでてきたわけなんすけど、早く見つかるといいな」
 窃盗団は一度逃げて身を潜めている。慎重になった相手が出てくるまでまだ時間がかかるだろう。
「骨董を扱う商人には気をつけるようには勧告も出してますが、ここらは特に商売が盛んでなかなか。盗まれる危険があるから、女神様縁の品は出回る数が減って値が高騰してるっていうのも聞きますね。それが狙いかとも思ったが、今の所流れてる様子もない」
「金目当てじゃないなら、集めたもんねぐらに取っておいてあるってことっすかね」
「でしょうなあ。捜査資料は……まだ読んでないか」
 山積みの捜査資料から逃げてきた黒羽は目を泳がせながら、まだと曖昧に答える。
「あたし読むのも書くのも苦手で、そういうのは相棒が昔魔族監理課にいたことがあるんで読んでくれてます」
「まあ、いかにも苦手そうですな。まあ、代わりに得意な相棒がいるならいいことだ。で、五つの潜伏先の候補がある話はしましたよね」
 特に不快になる様子もなく、アマン課長が朗らかに黒羽の肩を叩いて最初に話したことを訊ねる。
「はい。詳しい事はまだ知らないです」
「どこも枯れた鉱山です。ここらは昔鉄や銅が取れてたんですが、取り尽くしてしまったんですよ。だから近くの山は穴だらけです。といってももうかなり古くて崩落の怖れがあるから使える場所は少ない。それで、人間が簡単に入れはしないが魔族なら行けるって所を絞り込んで五箇所になるわけです。問題はそこは局員すら入るのが難しい。渡し人の舟が使えない」
「舟で行けなんですか?」
 空間が捩れた特殊な水路を知る渡し人の舟は大抵の所に行ける。行きづらいところ、水路が通っていない所は古い神々の影響が強い所ではと、藍李とグリフィスは見ている。
 やはり、この事件は旧世界の神に関わることかもしれない。
「そういう所に限って、運悪くな。だから少し離れた所から見張るしかない。まあ、まだ盗む気はあるだろうしその内出てくるでしょう。どうします、もう一勝負行きませんか。負けておきながらこう言うのもなんですが、少々力みすぎている点や無駄な動作がたまにあるのが気になりまして……。いや、この件が終わったら教務課に行く予定で、もうすでに指導もしているもので」
 アマン課長がこのまま剣を指導してくれるという予想外の申し出に、黒羽は驚きながらも喜ぶ。
「いえ。お願いします。すげえ、ありがたいです」
 妖刀の使い方や基本的な型を教えてくれた師と、アマン課長はまったくの正反対の型である。しかし、だからこそ新たに得られるものも多そうだった。
 もっと強くなりたい。護りたいものを護り抜くだけの力が欲しい。それに、漓瑞に余計な心配もかけずにすむ。
 黒羽は気合いを入れ直して、アマンか課長に指導を頼む。
「そうだな。短い時間だが、力の抜き方を覚えようか」
 そして力みすぎていると苦笑されてしまう。
「すんまん、ついつい力入れちまうんで」
「いやいや、やる気があるのはいいことだ。やる気をたもって力を抜く。ということでやりましょうかね」
 言葉にするととても難しいことを言われて、黒羽は少々混乱しながらもうなずく。
 しかし、実戦はさらに困難であるとその後すぐに思い知らされるのだった。


***

 漓瑞は捜査資料をめくりながらさして手がかりにならなそうにない文字の羅列に、さすがに集中力が散漫になってきていた。そして自分の体について黒羽にはつい誤魔化す癖がついていることに気が散ってしまっている。
(この件が終わったら、必ず話しましょう。何が起こっても、必ず)
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: