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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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「すみません。献上品とは壷や瓶。水差しと花瓶。それから皿の形状は確認されている物では、深めの汁物を入れる物なのでは?」
 何かに気づいたらしく漓瑞が警備係長に尋ねる。
「ええ。言われてみれば知っている皿はスープ皿ばかりですね。全部は知りませんが……」
「他に宝飾類や貴金属などは献上品にはないのでしょうか?」
「聞いたことがないですね。そういう物はすぐに売られてしまったりもあったかもしれませんが、ひとつもないのは不思議ですね。本局からは宝石や金銀が沢山でるからでしょうか」
 警備係長が初めて覚えた疑問に目を瞬かせる。
「ありがとうございます。また時間がとれれば聖地の方へも足を運ばせていただきたいと思います。では、失礼します」
 漓瑞が丁寧に頭を下げて、黒羽も慌てて彼に倣う。そしてまた山積みの資料の山へと戻ることになった。
「手がかりになりそうなものか?」
 漓瑞が見直している盗品目録を黒羽は覗き込む。
「全て、水か液体を湛えるものです。そこに意味があるのではないでしょうか?」
「うーん、東の神様は水に関わる話が多かったよな。でも、水っていうよりか容れ物っていうかんじっつーか。悪い、自分でよく分からなくなってきた」
 何かこう思いついたのだが、言葉にできない内に考えはどこかへ消え去ってしまった。
「容れ物。ああ、そうですね。水、液体に拘らず何かを入れる物ということが重要なのかもしれませんね」
「おお。そういうことじゃねえか。でも、そう考えると窃盗団は昔の神様のことを何か知ってるのかもしれねえな。しっかし訳わかんねえな。容れ物かき集めてどうすんだ?」
 魔族の中でも自分達の祖先がかつて神と呼ばれていたことを知っている者がいるなら、この奇妙な窃盗団はただの盗賊ではないことになる。
「藍李さんに本局に何か関連する資料がないか探してもらいましょう。神の統合の際に伝承は歪んで欠落してしまった情報がみつかるかもしれません」
「じゃあ、あたしらは手がかり届くまで待機か……。その前に窃盗団捕まえちまえば一気に解決だけどな」
 頭を使う必要がほとんどない最短の方法ではあるが、そうやすやすとはいかないだろう。
「問題は、頭目が持っていてる剣ですね。支局からの応援もここの支局員では太刀打ち出きないからでしょう。黒羽さんはまた大怪我をしないように気をつけてください」
「ある程度はすぐ傷が治るから問題ねえよ。あ、痛覚が鈍くなってる分、治りきってねえ傷に気づかねえとか、無茶しすぎるとかそういうのも気をつける」
 漓瑞に口を酸っぱくして今日まで何度も言われたことを黒羽は反復する。
 医務部長の元、痛覚の確認をしたがやはり痛みに関しては感覚が薄くなっていた。熱や冷気はまだ普通に感じられているのだが、この先その感覚も鈍くなる可能性はなきにしもあらずということだ。
 自分の体が急激に変異したわけではなく、内側で徐々に変化していたものが大きな衝撃によって目覚めたというのが医務部長の見解でこれからも肉体に過度に負担がかかった時に、新たな変異が起こる可能性もあるという。
「もし、無茶が必要と思ったら即時撤退、本局に神剣の使い手の応援を要請することもわかっていますね」
「わかってる。無理はしない、引くべき所で引く、それよりお前の方こそ本当に大丈夫なのかよ。妖刀使うとき、あんまり近くにいない方がいいんじゃねえのか?」
 漓瑞の体の内側の傷は快癒していると医務部長が判断したとはいえ、目に見えない部分だからこそ下手に負担をかけたらまた悪くなるのではと不安になる。
「大丈夫です。私も、無理はしません。あなたが無茶をしないように見ていないといけませんから」
「……まだまだあたしはガキ扱いか」
 漓瑞が穏やかに微笑んで、黒羽は子供扱いに唇を尖らせる。しかし、何かはぐらかされた気もした。
「そういう意味でもないのですけれどね。さあ、盗品の目録を中心に読み込みましょうか」
 そして漓瑞が机の上の書類を示して、黒羽は表情を強張らせる。
「……無茶しないためにもよ、相手の実力がどんなもんかも分かっとくの大事だと思うんだ。つーことで、アマン課長に一勝負してもらってくる」
 これ以上書類と顔を突き合わせるのは無理だと黒羽は逃げることにする。
「しかたないですね。あまりご迷惑かけてはいきませんよ」
 漓瑞は諦めたらしく渋々了承してくれた。
「おう、じゃあ、後は頼んだ」
 演習が楽しみでわくわくしながら部屋から出てく途中、黒羽はふと漓瑞が気になって振り返る。
 彼はすでに書類に目を落とし半ば集中していていつもと変わった様子はまるでない。
(気のせい、だよな)
 胸にわき起こったもやもやとしたものを振り払い、黒羽はアマン課長に挑むことへ集中することにした。



***

 アマン課長が演習の相手を快く引き受けてくれ、黒羽は屋外の演習場へと出た。
 外から見た支局の敷地は広大だ。演習場から見える真四角い石の民家はどれも箱を並べたように見え、局舎も一階層だけだが天井が高いのもあってその背後が見えない。
「中に比べると地味だなあ」
 局舎の外観は中の派手な色使いに反して、全体的に灰色がかった漆喰で覆われて質素だ。三角の瓦屋根も色はついているもののくすんだ赤で落ち着いている。
「向こう側の正面玄関は派手ですよ。金と赤で入口の縁飾りをしてます。じゃあ、やろうか」
 アマン課長が黒羽のつぶやきに答えながら、刀身が緩やかに湾曲した片刃の魔剣を抜く。
「へえ。またあっちから出る時見させてもらいます……お願いします」
 黒羽も返しながら剣を抜いて、相手方の動きに注視する。
 アマン課長の姿勢はいいというのに全体的に力が入っていない。かといって隙があるかというと、どこにもないのだ。
(やりづれえ)
 本局に入ってから支局にいる頃よりも多くの剣技を見てきたが、ここまで力まずに隙を作らない構えというのは初めてだ。
 じっと攻撃を待つのも性分ではないと黒羽は先手を打つ。
 正面からの薙払いはいとも容易く躱される。
 そして相手が右下からの切り上げを、刃を打ち合わせて受け力任せに次の攻撃を仕掛けるもののこれも躱された。
 何度か打ち合いを繰り返していっても、なかなか相手の間合いを掴めない。
(なんつーか、ぬるぬるしてんなあ)
 滑らかな剣裁きというには少々癖があり、どこなく鰻か泥鰌かのような掴所のない動きだ。
 力押しが得意な黒羽にとっては不得手なである。そうとはいえ、ここまで剣を合わせても太刀筋を読ませないアマン課長も相当な強さだった。
 それでも黒羽はなんとか自分の間合いへと相手を呼び込んで反撃に出る。一度捕らえれば、持ち前の力業と直感で勝負の流れを自分の方へと引き込める。
 首元に迫った切っ先をあやういところで黒羽は躱し、相手の剣をはじき返して斜めに切り裂く寸前で剣を止める。
「いや、さすがに本局員だ。強いなあ」
 アマン課長が剣を引いて楽しそうに笑う。
「いや、こちらこそ勉強になりました。課長が敵わなかったってなると盗賊団の頭、かなりのもんですね」
 黒羽も剣を収めて肩で息をする。想像以上にアマン課長は強く無駄な動きも多くさせられたらしく、思った以上に体力を消費していた。
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: