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セカンド・パートナー

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第三話


 さらに二週間後、いつもの店で佐知子は、沙織と彼女のセカンドパートナー、内藤幸次と三人で会っていた。
 幸次は五歳上とのことだが、とても若々しくみえた。引き締まった体型がそう見せるのかもしれないが、髪型や服装のセンスも嫌味のない程度にまとまっていて、男性としての魅力を十分に感じさせた。そして、平日の昼下がりに出てこられるというのは、自営業のため、ある程度時間は自由に取れるようだった。
 簡単な自己紹介が終わると、三人の間にぎこちない空気が流れた。無理もない、配偶者をもつ者同士が、一方の友だちに、その仲を公にするのだから。
 
 佐知子がまず口を開いた。
「どこで知り合ったか聞いてもいいかな?」
 そんな肝心なことをこれまで聞いていなかったのは、‘セカンドパートナー’という魔法の言葉に神経が行ってしまっていたからだろう。
「ネットなの」
 沙織の言葉に、佐知子は目を丸くした。
「ネットって、インターネットのこと?」
「ええ、趣味のサイトで意気投合して」
「そんな……どんな人だかもわからないじゃない! あ、ごめんなさい」
 佐知子は、幸次に向けて謝った。
「そうですよね、怪しいと思われて当然ですよね」
 幸次は笑顔で答えた。
「それを言うなら、お互い様よ。男性だっていろいろ痛い目に合うこともあるみたいだから」
 沙織の言うのももっともだと思い直し、佐知子は質問を続けた。
「実際に会うのってかなり勇気がいるんじゃなかった?」
「そうね、サイトの中でやりとりが二ヶ月くらい、それから直メールが半年くらいしてからかな、会おうってことになったのは」
「そうよね、それくらい時間をかけないと、信頼関係は生まれないでしょうね」
 あまり面と向かって根掘り葉掘り聞くのも気が引けて、後は世間話でお茶を濁した。今度、沙織とふたりだけの時にまた聞けばいいのだから。
 初対面という気疲れもあり、佐知子はふたりを残し、店を後にした。
 
 そして店を出ると、いつもの公園を、ひとりでぶらぶらと歩きながら、考えに耽った。
 幸次との対面は、佐知子にとって衝撃的だった。話で聞いていただけでは、どこか現実味に欠けていたのだろう。百聞は一見にしかず、とはよく言ったものだ。
 それに、とても感じのいい、そして素敵な男性だった。顔も姿も知らずに話していた男性が、実際会ってみたら、あんな人だったなんて……
 その時、佐知子にある思いが湧き上がった。
(あんな魅力的な男性と心を通わせ、本当に心だけの関係なのだろうか? 不倫をしていると知られたくないから、セカンドパートナー、なんて都合のいい言葉を持ち出したのかもしれないではないか。
 でもそれなら、最初から男の存在など言わなければよかったはず。うれしくて、言わずにはいられなかったということか?)
 次から次へと、沙織へのよからぬ疑惑が、佐知子の胸中で膨れ上がっていった。
 自分たちは、昔からよく似ていた。物事に対する考え方も同じだったはず。その親友が、もしかしたら妻子ある人と……
 貞女は二夫にまみえず、かつて、そう未亡人の生き方を表す時代があったが、今や既婚者にもそんな倫理観はあてはまらない。婚前交渉なんて言葉もとっくに死語になった現代だ。だから、きっと沙織だって……
 そこで、佐知子はハッとした。こうして親友を疑うのは自分の中に嫉妬心があるからだと気づいた。家の中でひとり取り残されたような暮らしをしている佐知子には、今日の沙織はそれほど眩しく、輝いて見えたのだった。
 
 
 その夜は、珍しく、夫の孝も息子の亮太も、早く帰ってきた。佐知子は久々に腕を振るい、三人で賑やかに食卓を囲んだ。
 テレビの音をかき消すように、三人の笑い声が部屋中を包んだ。久しぶりに、家庭というものが戻ってきたようだった。
 以前はいつもこうだった。幼い亮太を挟んで、幸せな時間が流れていた。それが、亮太の成長に伴い、それぞれが自室に引き上げるようになり、やがては、帰りまで遅くなっていった。
 でもこうして、三人そろった家庭はとても温かい。安心感に満ちている。
(やっぱり家族が一番だ)
 佐知子はそう思った。そして、昼間、沙織たちに会い、興味津々で話を聞いたことを後悔した。
(何も聞かなかった、何も見なかったことにしよう。
 私は、平凡でも、この家族の中で穏やかに暮らしていければそれでいい)
 
 夕食の後片付けをして、佐知子は風呂に入った。今夜は久しぶりに夫と……そう思い、念入りに体を洗った。
 風呂を出て寝室に入ると、孝が先に休んでいた。その孝のベッドにそっと滑り込もうとした時、孝が言った。
「まだ亮太が起きているぞ」
 亮太の部屋は、夫婦の寝室の隣だった。たしかに壁を隔てて、亮太の気配がする。中学生になった頃から亮太は、深夜まで起きているようになった。それを気にして、夫との関係はほとんどなくなった。
 かれこれ五年、こんな状態で男盛り四十五歳の夫は不満を抱かないのだろうか? もしかしたら、外で……
 そんなことを考えながら、自分のベッドに入った佐知子は、先ほどの後悔をまた訂正した。
(それなら、私だって……)

作品名:セカンド・パートナー 作家名:鏡湖