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セカンド・パートナー

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第二話


 二週間後、佐知子と沙織はまたいつもの店で向かい合っていた。これまでは、ひと月かふた月に一度会っていたのだから、今回はかなり間隔が短い。それは、佐知子の方から沙織を呼び出したからだった。
 食事が終わるまでは、普通の世間話をしていたが、食後のコーヒータイムになった途端、佐知子は待っていたとばかりに例の話を切り出した。
 
「ねえ、沙織、この前話していた、セカンドパートナーの人とはどうなの?」
「どうって?」
「その――うまくいっているとか、何か進展があったとか……」
「この前も言ったけど、心でつながっているから、進展も何もないわ。どうして、そう男と女の関係に持っていこうとするかな――」
「そういうわけじゃないけど、やっぱりそうなるのが自然な気がして」
「だから、世間でいう不倫とは違うって言っているでしょ」
「じゃ、聞き方を変えるわ。そもそも、どうしてその人が必要なの?
 主人に不満でもあるの?」
「夫に不満のない妻なんているかしら? みんなそれなりに我慢していると思うわ。もちろん私もそう。でもね、夫が悪いわけではないのよ。そもそも結婚というものが、問題だと思うの」
「どういうこと?」
「結婚生活が長くなると、夫婦は家族になるのよ。子どもができれば親にもなるわけだし。そこには、もう異性というものは存在しなくなっている、そう思わない?」
「まあ、たしかに、異性を意識することはほとんどないかもしれないけど、家族としての絆が深まって、信頼は強くなるはずよ」
「そう、それよ。夫はもう身内なのよ。家族間で男と女の関係ってむしろ不自然だと思わない?」
「じゃ、やっぱり、沙織はそのセカンドパートナーに、夫の代わりとなる異性を求めているということになるわよね?」
「ええ、プラトニックな部分だけどね」
「プラトニック? 中学生じゃあるまいし、そんなので満足できるの? 特に男性の方は無理な気がするけど」
「心が満たされれば、それで十分なのよ。前にも言ったけど、体の関係はいずれ終わりが来るわ。その上、互いの配偶者に対して罪の意識を生じてしまうわけだし」
「心だけなら、構わないと言うの?」
「そこが、何とも言えない部分なのよ。ただ、セカンド、つまりお互い二番目ということで、相手方の配偶者を立てているのだから、それで許してもらえるかなってところかな」
「私には都合のいい解釈に聞こえるけど」
 
 佐知子は沙織の夫や、相手方の妻側の立場に立って聞いている、そう思った沙織は、窓の外に目をやり、一呼吸置いてまた話し始めた。
「佐知子は、子育てが一段落して周りを見る余裕ができた時、夫に何か違和感みたいのを感じることはなかった?
 私はあったわ。夫とは、暮らしのことや子どものことしか共感できなくなっていたのに気づいて、なにか空しさを感じたの。いくら愛し合って結ばれても、時間がたてば夫婦なんてみんな、こんなものかと諦めかけていたわ。
 でもそんな時、同じものを見て感動したり、興味のあることについて話し合える、そういう生きがいを共にできる人に出会ってしまったの」
「そこまで彼に気持ちが移ってしまって、よくご主人と平気で暮らしていられるわね」
 そんな辛辣ともいえる佐知子の問いに対して、沙織は笑みを浮かべてこう答えた。
「それがね、彼と心を通い合わせるようになって、とても心が落ち着くようになったの。自分でも不思議なんだけど、気持ちが満たされて、今まで不満だらけだった主人にも、優しくできるようになったのよ」
 
 
 沙織と別れ、帰ったその夜また、佐知子はひとり、夕食に箸を付けていた。
 目の前のテレビでは、よく見るタレントたちが、にぎやかなトークを繰り広げ、笑い声が波のように響いている。佐知子は、テレビのリモコンを取り上げ、ニュース番組に切り替えた。一気に辺りは落ち着いた空気に変わった。
 
『夫に不満のない妻なんているかしら?』
 
 昼間の沙織の言葉は、まさに自分に向けられていると佐知子は認めざるを得なかった。
(みんな我慢しているのだから仕方がないと思うべきなのか? それとも、不満を埋めることを考えてもいいということなのか?)
 沙織は結婚そのものに問題があるようなことを言っていた。だから、熟年離婚という風潮が広がる世の中になってしまったのだろうか?
 きっと生活が豊かになり、余裕ができると、人はいろいろと考えるものなのだろう。耐えることしか選択肢がなかった昔の女性とは違うのだ。自由を手にするということは、悩みが増えることでもあるとしたら皮肉なものだ、佐知子はそう思った。
 
(今度、沙織のセカンドパートナーに会わせてもらおうかな……)
 ふとそんな突飛押しもない考えが浮かんだ。初めて聞いた時は、軽蔑に近い感情が湧いたはずなのに、今ではとても興味を持っている自分がいた。
 テレビのニュースキャスターは、真剣なまなざしで自分に語りかけている。
(あんな風に私に向かって話しかけてくれる人は、今のこの家にはいない)
 佐知子はそう思いながら、静かに食後の茶を啜った。

作品名:セカンド・パートナー 作家名:鏡湖