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てっしゅう
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「空蝉の恋」 第十七話

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ドライブをこの日にしたことは幸いだった。
そろそろお腹が痛くなる頃だったからだ。このところ不安定になり始めているので、いよいよ自分も更年期かと感じていた。
初めてのドライブの時に女であるのは辛い。

徳永は助手席に座った私をじっと見て、

「佳恵さんはとてもかわいい」

と初めて下の名前で呼んだ。彼のなかでは一段階進んだのであろう。
私も嬉しかったが、かわいいというのはやめて欲しい。この年齢では恥ずかしいのだ。

「今日はどちらへ連れて行って下さるの?」

「そうだね、菜の花を見に半島の先っぽに行ってみようと思う」

半島とは愛知県知多半島のことだ。
季節ごとにいろんな花が咲く「お花畑公園」があるのだ。
途中で誰もいない海水浴場へ立ち寄った。

「海は静かだね。波が少し荒いけど、夕陽を見るには絶好の場所だ。帰りにまた寄ろう」

こんなところで二人で夕日なんか見たら、もう帰りたくなくなりそうに思える。
徳永がまっすぐに水平線の方角を見ている時間が、とっても長く感じられた。
女はムードに弱いと思える。
偶然とか、ロマンチックな演出とかがあると心ときめいてしまうのだ。
この日の帰り道、この場所での夕日は、単に絶景であるだけに終わらなかった。

佳恵と徳永がデートをしている時に、恵美子は彼と和仁と三人で飲み会をしていた。
恵美子の彼は同い年の妻帯者だ。長く妻とは家庭内別居状態で、いつ離婚を言い出されてもおかしくないという危機状態にあった。
恵美子はもし離婚してくれたら、自分も離婚して再婚しようと考えていた。
それほど彼は恵美子を歓ばせていたと言える。

三人はお酒の酔いも手伝って赤裸々な会話へと進んでいった。

「康生さんは和仁と佳恵さんとのことどう思う?」

康生とは恵美子の彼の下の名前だ。和仁は「こうせい」と呼んでいた。正しくは「やすお」なのだが、そう子供のころから呼ばれていたと聞かされて今でも友人たちはこうせいと呼ぶ。

「会ったことが無いから想像だけでしか解らないけど、歳上でも綺麗な人だったら和仁には向いているんじゃないの。なあ?」

「康生(こうせい)、若いときならいざ知らず、もう綺麗だとか言う見方で彼女を作るのは良くないよ。おれは、あの人の純情なところが好きになった。前の妻がああいう感じだっただろう?余計にそう感じるんだ」

「和仁、美人は性格が悪いって言うのか?」

「恵美子は別だけど、自分で綺麗だと思っている女は性格が悪いよ」

「あら、和仁、そんなに気を使わなくていいわよ。私性格悪いもの、ハハハ~」

「自分で言うなよ。康生は男らしいから恵美子は好きになったんだろうけど、おれはどちらかというと男らしくないタイプだから、おとなしい佳恵さんのような感じの人が良いって思うんだよ」

「佳恵さんがおとなしいかどうかなんて見てくれだけで決めているんでしょ?案外解らないわよ」

和仁は新幹線で会ったことを話した。