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④銀の女王と金の太陽、星の空

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瞼の裏が、明るくなる。

香ばしい香りに、意識が覚醒する。

空と暮らし始めて、二人の飲み物となった麦茶の香りだ。

「空?」

ふと、ベッドが広く感じて瞼を開ける。

隣を見ると、そこにいつもいるはずの空がいなかった。

(あれ?)

ゆっくりと身を起こすと、体の芯に違和感がある。

昨夜の空の余韻が、くっきりと残っていた。

初めて空に抱かれて以来の感覚に、恥ずかしさと幸せな気持ちが入り交じり、ひとり照れた。

空をずっと身の内に感じながら、私は服を着ると寝室から出た。

「おはよう、空。」

あくびをしながらダイニングへ行くと、なぜか銀河がいた。

「おはよう、聖華。」

「…?銀河、おはよう…。」

挨拶しながら、あたりを見回す。

「空は?」

香ばしい香りは、どうやら銀河が麦茶を作ってくれていたからのようだった。

「…聞いていないのか?」

熱い麦茶を注いでくれながら、銀河が私を見る。

「なにを?」

本能的に感じた嫌な予感に顔をこわばらせていると、女官達が入ってきた。

銀河は麦茶を冷ましてくれながら、私の向かいに腰かける。

「空は、夜明け前に太陽と共に空の里へ出発した。」

ほどよい温度になった麦茶を、私に差し出しながら銀河が言った。

「…なにか、起きたの?」

そこにいない空を求めるかのように、体の芯に残る彼の痕跡が、妙に際立って感じられた。

「星一族から昨夜、村が襲われたと連絡があったんだ。」

銀河がその三白眼を少し細めた。

そんな私たちの前に、朝食の準備がされる。

「状況は?」

私が被せるように訊ねると、銀河は立ち上がりながら答える。

「壊滅的、ということだけ告げられた。連絡が入った時には、敵は既に去った後だったようだ。だから準備のために太陽や空を含めた騎士たちはいったん帰宅させ、夜明け前に出立することになったんだ。」

私が銀河につられるように椅子を立つと、銀河が手で制した。

「朝食を食べてから、大広間に来い。詳しくはその時に話す。私は先に行っているが、焦らなくていいからな。」

そのまま、銀河は踵を返して部屋から出ていった。

私は久しぶりに、独りの朝食を摂った。

けれど味もなにもわからず、ただ飲み込んだだけだった。


朝食を終えた私は、急いで広間へ行くと、大臣たちが既に揃っていた。

「待たせて、ごめんなさい。」

言いながら席につくと、銀河が立ち上がる。

「では、軍議を始める。」

銀河の号令がかかると、一斉に拍手が起きる。

「まず、先ほど太陽が帰ってきたので、ここへ来る前に会ってきた。」

場が一斉にざわつく。

「もう…帰城したの?」

(調査はどうなったの?)

私は女王として、動揺を見せないように冷静に問う。

銀河も感情の読めない表情で私を見た後、ゆっくりと皆を見渡す。

その冷ややかな三白眼と目が合うと、皆、口をつぐんだ。

「今、太陽は怪我の手当てを受けている。治療が終わり次第、こちらへ来る。詳細は太陽が報告する。私からは、太陽から聞いた大雑把な報告を皆にする。皆は冷静に聞くように。」

その言い方から、状況が深刻であることを感じた。

「星一族は昨日、騎士たちに稽古をつけるために村を空けていた。そして夕刻、帰村すると、村に残していた女子どもを全て惨殺され、家屋には火を放たれ、壊滅状態となっていた。新しい頭領がいまだ決まっていない一族は、とりあえず空へ、その連絡をしてきた。空が単独で戻ると言ったが、太陽が軍を整えてからと説得し、夜明け前に出立して行ったところまでは、知っている者もいるだろう。」

(女子どもが全て惨殺され、家屋には火を放たれ、壊滅状態…。)

あまりの惨状に、胸が苦しくなる。

私は眉間に力を入れると、平静を装おった。

「星一族の報告では、帰村した時には既に敵は去っていたとのことで、襲撃犯が不明だった。それを太陽と空は調査しに30名の騎士を伴って行った。しかし、戻ってきたのはわずか数名の騎士と太陽のみ。しかも、それぞれがかなりの重傷だ。」

(…!?)

「空王子は、どうされたのです?」

宰相が声をあげる。

私は冷静を保とうとするけれど、身体中が小刻みに震えて止まらない。

そんな私を銀河は横目で見たけれど、すぐに視線を大臣たちへ向ける。

「太陽の報告では、『襲撃の事実なし』とのことだ。」

「…は?」

近衛隊長や宰相らが、同時に首を傾げた。

銀河はその三白眼をますます冷ややかに細めると、まっすぐに前を向いた。

「星一族の、裏切りだったそうだ。
襲撃の報告は罠で、標的は空。」

いっせいに皆がどよめく。

「標的が、空王子とは…?」

震える声で、空付きの侍従長が訊ねる。

銀河は大きく息を吸い込んだ。

「理由は、わからない。ただ、空は…捕らえられたそうだ。それを奪還しようとし、我軍は多くの兵を失い、太陽たちは重傷を負ったようだ。」

地響きするくらいのどよめきが起きる。

私は皆を落ち着かせようと立ち上がる。

震える手をきつく握りしめ、腹に力をこめた。

すると、昨夜の空の余韻が蘇る。

『俺がいない時は、一国の王でいてよ。』

余韻と共に、空の声が聞こえた。

(私は、一国の王だ。)

深呼吸をすると、冷静な声で皆に告げる。

「太陽の治療が済むまで、いったん散会。余計な動揺と混乱を防ぐため、このことについてはこの場以外で話さないように。また、すぐに集まれるように各々の私室にて待機。」

ぐるりと皆を見渡すと、それぞれが手を挙げて了解の合図をしてきた。

「では、将軍及び近衛隊長、各隊長と銀河以外は退室。以上。」