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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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「突然、『相談したいことがある』と言ってくるから、何かと思えば、『結婚しないまま付き合い続ける女を、男はどう思うか』なんて聞いてくるんだ」
 日垣は少し照れくさそうに笑った。大きな手が前髪をかき上げる。その仕草を見ながら、美紗はにわかに、昼休みの女子更衣室で親しい後輩と雑談に興じていた吉谷の姿を思い出した。

『昔は、隠れ家的なお店をひとつ、持ってたみたいだったけど』

 自ら日垣貴仁に声をかけたという吉谷綾子。

『水割りが好きみたいね』

 彼女は、日垣のアルコールの好みを知っていた。当時、四十手前の日垣と、彼より数歳年下だった吉谷。マホガニー調の色合いに統一されたオーセンティックバーがよく似合う二人は、何度グラスを傾け合ったのだろう。

 美紗の目の前にあるブルーラグーンが、再び胸を射るように煌めく。

 かつて、独身の吉谷綾子も「いつもの席」に座っていたのだろうか。自分だけのものだと思っていた日垣貴仁の和やかな笑顔を、彼女も間近に見ていたのだろうか。自分だけしか知らないと思っていた彼の癖に、彼女も気が付いていたのだろうか。


「吉谷女史……、吉谷さんは、あの頃も群を抜いて優秀で、なにより有無を言わせぬ迫力がある人だった。それで、当時の8部長が彼女を『吉谷女史』と呼び始めて、以来ずっとその敬称付きなんだ。本人も、満更でもないと思っていたんじゃないかな。それでも、自分の人生を、一人で完璧に計画できていたわけじゃない」
 窓ガラスに映る夜景を懐かしそうに見やる日垣が語った「当時の吉谷女史」は、美紗の知っている大先輩の姿とは、少し違っていた。