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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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「当たり前じゃない、そんなこと。最終的に決めるのは、たぶんそちらの班長なんでしょ? でも、鈴置さんが日垣1佐のコネで今の席にいるんだったら、松永2佐が何を言っても通らないんじゃないかって、それだけが気がかりだったんだけど」
「ま、つなが、2佐……?」
「直轄チームの人事を実質的に決めるのは松永2佐でしょ? 人事課長はあくまで人事管理してるだけなんだから」
 八嶋は、言葉を失っている美紗を呆れたような目で見た。
「取りあえず、ある意味フェアにやれることだけは分かって良かった。ありがとう」
 場違いな礼の言葉は、美紗にはほとんど聞こえなかった。完全に頭の中が真っ白になっていた。
 なぜ「席」の意味を勘違いしたのだろう。危うく、奇妙なことを口走るところだった。八嶋香織は「いつもの店」のことなど知りはしない。ただ、日垣貴仁のすぐ下で働くことを願っているだけだ。それでも、彼女の想いはやはり、並々ならぬものなのだろうが……。

「私のほうは、もう、うちの班長とも課長ともだいたい話がついてるの」
 黙りこむ美紗の前で、八嶋は急に楽しげに語りだした。
「松永2佐がOKしたら、鈴置さんと私のトレードになるんだって。渉外班のほうは、大使館の付き合いとか海外機関との交流事務とか、メインの仕事はそんなとこ。時々、会議通訳に入ったりするけど、通訳の仕事は個人の能力に応じて割り振られるから、今できなくても大丈夫。たぶん、研修って形で通訳の専門学校にも行かせてもらえるし」
 会議通訳は高度なスキルを要求される。前提となる語学力はもちろん、発話内容の全体を素早く把握し、聞き手に分かりやすい言葉で訳し伝える専門的な技能がなければならない。非常に難しい仕事だが、外資系企業で働いた経験を持つ八嶋は、それを当たり前のようにこなせるのだろう。美紗には、それに匹敵するほどの実力はない。二人並べば松永がどちらを選ぶかは、考える余地もなさそうだった。
「ああ、最近聞いたんだけど、省内でうちの渉外班を希望している人って、結構いるんだって。何でか分からないけど、人気あるみたい。だから、私とチェンジするのは、鈴置さんにとっても、決して悪くない話だと思うんだよね」
 言葉の端々にあからさまな優越感が見える。しかし、美紗の気に障ったのは、それとは全く別のことだった。