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同級生

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◇ 高校編 ◇


「あ~あ、今日はプールがあるんだ……」
 高校二年の私は、とても憂鬱な気分で駅へと向かった。
 そう言えば、入学間もない頃もこんな気持ちで登校したことがあった。憧れだった電車通学が、とんでもない不届き者のせいで、瞬時に色あせてしまった、あの時だ。
 
 その日は架線の故障で、かなり電車が遅れていた。
 やっときた電車はとても混雑していた。帰り道だから急ぐ必要はなかったので、一台見送ることも考えたが、次の電車がすぐ来るとは限らない。ひと駅乗れば乗換駅だから少しの辛抱だと思い、私はギューギュー詰めの車内へと押し込まれた。身動きひとつとれない満員電車というのは初めてだった。
 その時だった、足に何か触れている! 制服のスカートは膝まであるのに、誰かの手が腿に触れていたのだ。恐ろしさと恥ずかしさで私は固まってしまった。ただただ、早く駅に着くことだけを祈った。一駅がこんなに長く感じられた事はなかった。ようやく駅に着くと、私は転がるように車外に出て、後ろも振り返らずに駅の階段を駆け降りた。 
 このことは、誰にも話せなかった……そしてしばらくは、少しでも混んだ電車がくると、遅刻覚悟でやり過ごす日々が続いた。
 
 でも、今ではそんなことはなくなった。平気で混雑した電車にも乗っている。今度、あんなことがあったら絶対に捕まえてやる、女子高生をなめるな! と思っていたが、幸運なことにもうそんな場面に遭遇することはなかった。
 そんな嫌なことで始まった電車通学だったが、いいこともあった。
 それは、毎朝、途中の駅の同じ場所で電車を待っている、カッコいい男の子がいたことだ。マディソンスクエアバッグを持ったその男子高校生を、車窓から探すのがいつしか、私の日課になっていた。どこの高校かもわからなかったが、ただ見ているだけで私の心はときめいた。
 
 中学入学時は小学校からの顔見知りが多かったが、高校はまったく別世界だった。見るものすべてが珍しく、中学までがいかに井の中の蛙だったかがわかった。新しい自分に生まれ変わったみたいで、以前の自分を知っている同じ中学の子たちとは、自然と距離を置くようになっていた。その中にはアイツも含まれた。
 中二のバレンタインデーのあの日、私はアイツに渡そうと、チョコを用意していた。
 でも、放課後の校舎脇で、アイツが女子からチョコをもらっている姿を見てしまい、私の気は変わった。帰り道に声をかけられても、チョコを渡さないという頑なな気持ちは変わらなかった。
 でも、逆告白され、私はやっぱりアイツのことが好きだ、自分の気持ちに素直になろうと思った。そして、あの夕暮れの手をつないでの散歩は、一生忘れられないいい思い出に……
 アイツの突然の告白は、本当に驚きだった。噂になってそれっきりになってしまったが、アイツが目指している高校に行けばまたやり直せると思った。
 
 でも、高校生活は楽しく、入学後まもなくクラスの仲良しグループが誕生した。
 私は男女合わせて七、八人のグループでいつも行動した。私のマディソンの彼もその中では有名な話で、今朝もいたね、なんてみんなにからかわれたりした。やがて、その中の一人と、私は自然に付き合うようになった。
 アイツにも、彼女ができたようだった。いっしょに下校する姿を何度か見かけた。こうして、私たちの中学時代の想いは、淡い初恋、幼い頃の出来事として、互いの思い出のページに眠ることになった。

作品名:同級生 作家名:鏡湖