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同級生

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◆ 中学校編 ◆


 セーラー服姿がまぶしい。いつのまに、少女から脱皮していったのだろう……
 小学生の頃、どんくさいあいつが妙に気になって、ちょっかいばかりだしていた。でも、飛び箱を飛んで顔から落ちた、あの女の子はもういない。長い髪をなびかせ、校舎の階段を駆け降りる姿を見るたびに、俺の胸はドキッとした。
 
 ある時、ふと、窓側の席から外を見ると、あいつが体育で走り高跳びをやっていた。俺は授業の合い間にちらちらとその様子を見ていた、小学校の飛び箱の時のように。
 あいつはあいかわらず運動音痴で、まったく飛べる様子はない。でも、そんなことはどうでもよかった。俺の関心はあいつの体操服姿に移っていた。胸のふくらみ、腿の肉付きが思春期の入り口にいる俺の胸を高鳴らせた。もう、授業など頭に入らなくなっていた。
 放課後、昇降口であいつとすれ違った。するとあいつが言った。
「さっき、見てたでしょ! またバカにしてるんでしょうけど、苦手なものは苦手なの!」
(おまえ、きれいになったな)
 俺はそう心の中でつぶやいて、あいつを見送った。
 
 中二のバレンタインデーがやって来た。いつもは気にしたこともなかったが、今回は違った。あいつが誰かにあげるかどうかがとても気になる。俺にくれることはないだろう、いつかの昇降口でのあいつの態度から期待薄なのは明らかだ。
 その日の放課後、俺は、三人からチョコをもらった。お返しはできないけどいい? と聞いてもらうことにした。
 ところが偶然、校門を出たところで、あいつが前を歩いているのに気付いた。誰かにチョコをあげたのだろうか? 俺はここで会ったのだからちょうどいい、思い切って聞いてみようと思った。
 
「よっ、ひとり?」
「見ればわかるでしょ!」
「そりゃそうだ」
 俺は、ちゃっかりあいつと並んで歩き出した。
「ところで、今日、バレンタインだろ? おまえ、誰かにあげたの?」
 あいつは、足を止めて俺の方を向いた。
「なんでそんなこと、言わなきゃいけないの!」
「ちょっと、聞いてみただけだよ……」
「誰にもあげていません!」
 俺はホッとして、調子に乗ってしまった。
「そうか、誰かに渡せなかったのなら、俺がもらってやってもいいよ」
 するとあいつは呆れたように言った。
「チョコなんて持ってないし、もし、持ってたとしても貰ってくれなくて結構です!」
 俺はしまったと思った。このままでは、怒らせたままでもう口もきいてもらえなくなるかもしれない。その焦りから、俺はとんでもないことを言いだした。
「バレンタインデーは女子が男子に告白する日だけど、逆だってかまわないよな?」
「え? 何言ってるの?」
「俺、お前のことが好きだ。子どもの頃からずっと気になっていたけど、今は、好きなんだとはっきりわかったんだ」
 あいつは何も答えなかった。うれしいのか、イヤなのか、どうでもいいのか……
 
 俺たちは、それからただ黙って肩を並べて歩いた。
 いつのまにか橋を越え、土手を歩いていた。なにげなく横を見ると、夕陽に照らされたあいつの顔には満足そうな微笑みが浮かんでいる。
 俺はそれを見て、安堵したと同時に心が高鳴った。恐る恐る手を差し出すと、あいつも控えめに手を出した。俺はその手をしっかりと握り、夕日に向かって歩き続けた。
 心地よい風を受けながら、言葉少なにあいつと歩いた土手の小道、この時の胸のときめきは一生忘れないだろう。
 
 
 ところが、そんな幸せはその日限りとなってしまった。
 翌日、登校したら、俺たちのことが噂になっていたのだ。ふたりで手をつないで歩いていたところを誰かに見られたらしい。万事休すだ。
 中学生にとって、男女交際は隠れてするもので、バレてしまったら、なぜかもう続けられない。こうして俺たちの交際はたった一日で終わった。
 だが、昨日の会話の中で、あいつの志望校が俺と同じだということがわかった。
(よし、高校へ行って出直しだ)
 俺はそう固く決心した。

作品名:同級生 作家名:鏡湖