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[王子目線]残念王子

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ドSな従者


城門が見えて来たので、僕はスピードをゆるめる。

すると、門前に小柄な男が仁王立ちしているのが見えた。

「うーわ、めんどくさいのがいる。」

せっかく気持ち良く帰ってきたのに、一気にうんざりした気持ちになる。

僕はリンちゃんを止めると、方向をくるっと変えさせた。

「裏門から入ろう。」

その瞬間、目の前に小柄な男が立ち塞がった。

(たった今、城門前に立ってたのに…瞬間移動!?)

「おかえりなさい、王子。」

言いながら、張り付いた笑顔でリンちゃんの手綱を取る。

「勝手に触んな。」

僕が怒っても完全に無視して、リンちゃんを城門へ導く。

「遠乗りは楽しかったですか?」

(こっそり出掛けたのに、嫌味なやつ!)

手綱を引きながら尋ねてくるけれど、僕はそっぽを向いて無視した。

そして城門をくぐった瞬間、リンちゃんから飛び降りる。

「あ、王子!」

焦った声に僕はふり返らず、片手を振りながら城へ向かおうとした。

「おなか空いてるでしょ?なにか作らせましょうか?」

(!?)

驚いて思わずふり返ると、笑顔の男の手には僕が落としたはずの水筒と弁当箱が握られ、高々と掲げられていた。

「マ…マル、どこでそれを?」

マルは僕の質問には答えず、その一見美少女と見間違える可憐な笑顔で小首を傾げる。

ただ、目はいつも笑ってない。

僕は軽く咳払いをすると、その場をそそくさと離れた。

「あのマント、ほんとにあげちゃっていいんですか?」

笑いを含んだマルの声が、どんどん小さくなる。

(あいつ、ずっと見てやがったのか!?)

僕は大股で歩いて近くの厩舎へ立ち寄ると、騎士用の馬にまたがり、城の入り口まで一気に駆けた。

なんとか自室まで戻り、ソファへ倒れ込むように身を沈めると、上着のボタンを外した。

(マルが戻る前に、なんかおやつと飲み物持ってきてもらお。)

僕は、テーブルの鈴を取ろうと手を伸ばした。

その瞬間、そのテーブルにアイスティーと美味しそうなワッフルが置かれる。

恐る恐る視線を上げると、満面の笑顔のマルがそこに立っている。

「晩御飯が近いので、これで簡単に済ませといてください。」

言いながら、僕の上着を脱がせる。

(こいつ…どんだけ素早いんだ…。)

「リンちゃんに水あげてくれた?」

ダイニングの椅子に座りながら僕が言うと、マルは部屋着を持ってくる。

「かわいそうに、飲まず食わずでこきつかわれたもんだから、飼い葉と水をを貪るように口にしていましたよ。」

(ほら、嫌味が始まった!)

「あのお弁当、朝早くからご自分でこっそり用意したのに…残念でしたね。でも、意外とおいしかったですよ。」

(食べたんかい!)

おかわりのアイスティーを注いでくれながら、マルがくくっと笑う。

「…おまえ、いつから見てたの。」

(ていうか、弁当と水筒を落とした時点で教えろよ…。)

僕の質問は完全に無視して、マルは僕の前に一枚の招待状を差し出す。

「これを、果樹園の娘の家に届けておきました。」

「はぁ!?」

招待状をのぞきこむと、今週末に催される舞踏会のものだった。

「今回の舞踏会は、資産家の娘たちを集めて、あなたの側室候補を選ぶ目的なのはご存知ですよね?」

言いながら、一枚の写真と紙を僕の前に置く。

「なかなかの豪農でしたよ。」

見れば、そこには豪邸が写っており、紙には所有地の総面積と資産価値が記されていた。

「いつの間に調べたんだ!っていうか、あの娘、ボロッボロでとても資産家の娘に見えなかったぞ。」

するとマルは僕の着替えを手伝いながら、さらっと毒を吐く。

「ただの下働きの娘かもしれないし、倹約家なのかもですよ。
貿易できるような資源も産業もない貧しい小国のくせに、偉そうに息子に側室を持たせようとしている統治能力の低いどっかの王様と違って。」

(うわっ、こいつ父王までディスりやがった!)

「とりあえず、資産家の娘を側室にしてその実家の経済力に頼ろうとしている情けない状態なので、いくら美人でもお金がなけりゃダメですよ。」

僕はワッフルとアイスティーを一気に飲み込むと、マルと視線を交わした。

そしてそのままソファへ移動し、体を沈める。

「…ゆっくりしたいから、とりあえず下がって。」

僕は言いながら近くの本を手に取ると、パラパラとページをめくる。

そして目を上げると、音もなくマルが消えていた。

「あいつ…ほんとに人間か?」

僕はさっきまでマルがいた場所を、しばらく見つめていた。

作品名:[王子目線]残念王子 作家名:しずか