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晴天の傘 雨天の日傘

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 日曜日、決戦の日が来た。朝から空は曇り空、肌で感じるじめじめした感覚と風の運ぶにおいは雨のにおいだった。快晴は目覚めると大きく伸びを一回、窓から見える泣きそうな空を眺めてフフッと笑みを浮かべた。
「ゲームまでには晴れるよ。むしろ今この天気の方が奇跡を起こすお膳立てとして相応しい。何せ、僕には魔法のアイテムがあるからね」
 快晴は新しく買った服に袖を遠し、昨日の内に磨いておいた靴を履いて意気揚々と玄関を開けて曇った空の下を歩き出した。  
   * * *

 いつものように電車は街へ向けて定時に発車した。予定では快速列車の止まる大きな駅から路線を変えてスタジアムへ。早めに出発したのは途中街に立ち寄って彼女に何か買ってからにしようと決めていたからだ。

 電車は天候を気にせずただまっすぐに進む。快晴の目論見では窓から見えるどんよりとした空はそろそろ晴れて来るはず。ところが、駅を一つ、また一つ止まって行く内に、どういうことか雲は減って行くどころか徐々に増えて厚くなってくるではないか。
「そんなはずは、ないだろう」
 快晴はカバンに手を当てて、お守りとして入れた傘を確認した。いつもとは違う感覚を覚えたその瞬間、快晴の顔は急に青ざめた
「おい――」

 快晴はカバンを開いて中を直接確認すると、勝負アイテムとも言える傘が入っていないのだ。
「あ――そうだ」
 今日のために新しい服を用意し、手荷物も一部変えた。なのに肝心の傘をどうやらカバンに入れるのを忘れたようだ。家に取りに帰るには電車はずいぶん進んでしまった。

 強い懸念は一度滅入った気持ちに容赦なく襲いかかる。予想通り、電車の窓に一つ、二つと雨の直線が目視できるようになるったと思うと車窓は流れるように濡れだしていた――。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔