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レイジア大陸英雄譚序幕

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開戦


 トキヤの街をぐるりと囲む城壁。その出入り口となっている門を狙い、魔物の集団が……いや、魔物の攻撃部隊が行動を開始していた。
 城壁の上から下へ、そして下から城壁の上へ互いに矢や魔法が飛び交う。城壁の上から岩が落ちてくるが、統制の取れた魔物たちは盾を構えてなんとかしようとしたり、魔法で威力を低減したりしてそれを防ごうとする。城壁に梯子を立てかけて登ろうとする魔物もいたりしたが、何れも防がれる。
 しかし最も攻撃が集中している一番の脅威は、その図体が城門ほどあるトロールの存在だった。
 重たげな棍棒を引きずり歩きながら直進し、城門へ取り付こうとする。そして取り付いたらその棍棒で滅多打ちにするのだろう。行動の予測は単純明快だったが、それを成し得ると理解できたならば笑うどころか戦慄させられるものがあった。
 つまり、生きた破城槌だ。絶対に城門へ到達させてはならない。さもなくば、その巨腕から繰り出される大樹程もある棍棒は、容易く城門を損傷させるに違いないからだ。
 しかし、させるなと口にするのは容易であっても、実行するのは簡単ではない。矢は皮膚に阻まれ、魔法ですらまず皮膚を貫通するほどの使い手は少ない。その上、このトロールは要所に防具を付けていた。鬱陶しそうではあったが、攻撃を受けている現状があるからか外す様子はない。
 そして、トロールに気を取られていると今度は敵の遠距離攻撃隊が野放しになる。だが、城門の上から攻撃を加え続ける大部分の者達は心の中で恐怖した。このままでは負けてしまう、と。何でこんな事が、と。
 
 
 ドシーン……。
 不気味な音が響き渡り、リョウジは舌打ちする。
 「景気が悪い音だ」
 酒場の椅子から立ち上がる。行く当てとてない。裏門もしっかり閉まっているだろう。
 再び激突音が響く。その音を聞いてリョウジは皮肉げに笑みを浮かべる。たった二、三年前に改修したばかりの城門のはずだが。
 「やれやれ、後方になったから安全だってタカ括って安普請しやがったな」
 後方なら安全なんて事例はどこにも存在しない。百年に一度のことかもしれないが、それは確かに十数年前存在したというのに。
 (しかし、ここも危ねえか)
 トロールが来てるのだか、攻城兵器を組み立てるだけの大規模な集団が来てるのかは知らないが、建物ごと押し潰されたらそのままお陀仏だ。
 リョウジが酒場から出た時、丁度遠くに見える木の城門が一部破壊された。そして、一度破壊されると脆いもので、巨大な手が煩わしげに隙間から差し込まれ、一気に引きちぎられる。
 「さてと、どうすっかなあ……」
 戦列に加わった方が良いのだろう。さもなければ人類側が勝った時、生き恥を晒すどころか今度は敵前逃亡の罪で処刑されるかもしれない。
 だが一度打ちのめされ、それでも生きていれば良い事が在るという言葉を信じて生きてきて……何もなかった。スズカ・リョウジと言う男は生きると言う事以上の事を許されなかった。
 (なら、適当に死んだ方が俺自身の為でもあるのかねえ……)
 どうするか迷うリョウジの足は止まっていた。しかし、再び歩きだす。戦場と真逆の方向、もう一つの門へ向かって。
 
 
 城門が破られ、魔物が流入する。しかし、それはまだ終わりを意味することではない。
 そのような事態に備えて城壁の内側にはバリケードが築かれ、近接戦力が配置され、敵の侵攻を少しでも遅延させるべく努力が図られていた。
 城門の破片が飛び散ったことにより多少の混乱はあったものの、無論近接戦闘を得意とする衛兵や冒険者達はその殆どが健在であった。そして、遂に雪崩込んできた魔物たちとの近接戦闘が開始される。
 「魔物をこれ以上踏み込ませるな!」
 そう叫ぶ人類側に対し、魔物たちは人間には意味の通じぬ言葉で吠え、突撃してくる。それらは俗に言う小鬼種と呼ばれる中でも集団戦闘力の高いゴブリンガード達で占められており、トロールはその図体故に城門をくぐることができず、外で立ち往生していた。
 城門の上のアーチを破壊すれば通れるのだろうが、それを破壊すれば結果として瓦礫が地面に散乱する。トロールほど図体が大きいなら兎も角、ゴブリンガードからしてみれば身の丈はある邪魔な壁である。トロールの足で吹き飛ばすことも出来るが、それは味方を後方から撃つ事にもなる。
 ……本来ならばトロールはそこまで頭も気も回さず、アーチを破壊して瓦礫を蹴飛ばして歩き敵ごと味方を葬り去る振る舞いをするはずなのだが、トロールを指揮している存在はトロールの愚鈍な頭脳ですら「命令以外の事をすれば死ぬ」と言う洗脳に縛られていた。故に、城門を破壊する以上の命令を与えられていないトロールは城門の無くなったアーチの前で立ち尽くすしかなかった。
 
 そしてその後方に居る魔族、ボーモルは快哉を叫んでいた。
 「いいぞ、いいぞ! そのまま城壁内へなだれ込め!」
 彼はトロール一体と魔物の集団を与えられ、この特殊任務に従事することとなった。彼に与えられた任務は本隊が到着するまでの撹乱、及び一帯の制圧である。
 不慮の事故が起こり魔物の領域とこの近くを繋ぐポータルが破損してしまったが、ボーモルは直にポータルが修復されて帰れるようになるか、あるいは本隊が来るだろうと楽観視していた。故に、自身がモルモットである事を微塵も疑わず、目の前にぶら下がっているようにしか見えない獲物の狩りを楽しんでいた。
 万が一強力な抵抗があった時に備えて自身は後方に控えていたのだが、この様子を見る限りそれも無いようである。ならば、後は料理するだけであった。
 自身の直属の魔族は数体ほど魔物を付けて目の前の街を迂回させている。目的は単純で、正面攻撃から逃げる人間達が安堵したところをまとめて狩ると言う目的がある。泡を食って逃げる人間達を挟み撃ちにし、恐慌状態にして狩る。実に単純で楽しい狩りだ。
 彼は罠を警戒して攻撃を控えさせていたトロールに命令し、城門を完全に破壊して無駄な抵抗を続ける人間達を踏み潰させようとする。
 だがしかし、その直前に事は起こった。トロールの怒号が大気を強く激しく打ち付けたのだ。
 
 時を少し戻し。
 ツバサは第二陣として控えていた。バリケードのある空間にはどうしても限りがあったし、そうすると可愛らしい少女よりは腕に自慢の在る男か、あるいはもう少し年を食い且つ相応に経験のある女性が選ばれるのは仕方の無いことだった。
 だがしかし、ツバサは早々に痺れを切らした。前の方で人々が生命を賭けて戦っているのに、ツバサはそれを座して見守る事はできなかった。可愛らしい見た目に反して後方で祈るよりも、前線で戦う方が少女の気性にとてもよく合っていたのだ。
 そして、彼らは知らない。知る機会がなかったのだから仕方ないが、ツバサは剣一本で大人数名を蹴散らす程の強者であった。更には……。
 「おい、嬢ちゃん、危ねえぞ」
 第二陣に控えている男がツバサを引き止める。第一防衛線と第二防衛線の間には空隙がある。ただの空隙ではない。罠がそこかしこに仕掛けられているのだ。ツバサもそれをよく理解していた。
 「大丈夫です。ちょっと行ってきます」
 「ちょっとって、おい……!?」