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レイジア大陸英雄譚序幕

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遭遇


 バレンタール連合国トキヤ。
 かつて交通の要所であったその町は、国としての中枢が移った事で衰退しつつあった。
 その町にある寂れた冒険者ギルドの片隅で、一人の青年がボロく丸いテーブル一つと椅子を使って昼寝をしていた。
 暫く寝ていた青年はやがてパチリと目を覚ますとテーブルから足を下ろし、立ち上がった。
 「ぼちぼち行くかあ……」
 テーブルに立てかけてあったボロい鞘に収まった剣を手に取り、気乗りしない顔でのそのそと出入り口へ向かう。
 すると、飛び込んできた少女と青年はぶつかりそうになった。咄嗟に青年は少女を受け止め、激突を防ぐ。
 「大丈夫か?」
 「あっ、すいませんでした」
 少女は青年から離れると頭を下げる。そしてそれ以上何も言わさない勢いで奥の方へ急いでいった。
 青年は頭をポリポリと掻いたものの、それ以上気にする事もなく冒険者ギルドの外へ出た。
 
 少女は冒険者ギルドを奥へと進んでいく。
 繁栄が過ぎ去った町。冒険者ギルドもその広い待合所に人の姿は少なく、受付も一つを除いて閉じられていた。
 受付の中年女性に少女は声を掛ける。
 「すいません」
 「はい、なんでしょう?」
 「ここに……その、スズカ・リョウジと言う冒険者が居ると聞いたのですが」
 中年女性はキョトンとした顔になる。
 「ええ、居るはずですが……。入り口近くに、だらしのない男が居ませんでしたか? その人ですよ」
 「ありがとうございます。もう一度見てきます」
 少女はパタパタと駆け出していく。
 ……そして、少女は困惑の表情を浮かべて直ぐに戻ってきた。
 「どなたもいらっしゃらないようなのですが……何か行きそうな場所、ご存知ありませんか」
 聞かれた中年女性は少し考えた後、ポンと手を叩く。
 「……ああ。もしかするとトキヤの外に居るかもしれません。食事の配給と引き換えに、近辺の哨戒をお願いしているのです。本当は哨戒が終わって戻ってきている時間のはずですが……何せ、だらしがないので」
 流石に少女も呆れた様子になりそうになるが、ぐっと堪えて笑顔で礼を言うと再びパタパタと駆け出していった。
 
 
 「よっ、はっ、とっ」
 トキヤの外に出た青年は軽い気合を口ずさみながら剣を振るう。とは言っても素振りではない。
 斥候に来たらしいゴブリンを切り飛ばしたのだ。
 大きな傷を負わせられたゴブリンはギャアギャアわめきながら絶命し、残るゴブリン達も不利を悟って逃げ出そうとする。
 しかしながら、青年の武器は剣だけではない。むしろ、威力だけで言えば魔法の方がより強力と言えた。
 故に、仲間を見捨てる代わりにすぐには追いつけない場所まで逃げることに成功したゴブリン達も、逃げられたのはそこまでだった。無形の刃が身体をバラバラにし、物言わぬ肉塊にしてしまう。
 (今回の収穫はこれでいいだろ)
 青年の仕事はトキヤの周りの哨戒と、魔物の数減らしである。本来ならどこから来たか確認したほうが良いのだろうが、そこまで面倒くさい事をやる必要性は感じていなかった。大体、ここはバレンタール連合国でも最前線とは言えない。大した魔物は出ないだろうし、精々大量繁殖したゴブリンの集団くらいのものだろう。
 ただ一応、ちゃんと働いてるフリはしなければならないため、青年はトキヤの周辺をのんびりと散歩して回った。いつも通り変わらぬ風景だ。
 (やれやれ、ここで昼寝……ってのもな。虫が多そうだ)
 のんびり歩きながらそう考える。やがて、青年は視界に人影を認め、お小言を言われては敵わんと少し居住まいを正した。だがそこに居たのは少女だ。どこかで見た気がする。
 (あー、どこだっけな)
 「見つけました! スズカ・リョウジさんですか!」
 小動物系と言ってもいい感じの少女。青年は気づいた。
 「あー、ちょっと前にぶつかった子か」
 「スズカ・リョウジさんですね!?」
 「……まあ、そうだけど」
 グイグイ来る少女に辟易してそう認めると、少女は満面の笑顔になった。
 「わあ、良かった! 私、貴方に一度お会いしたかったんです」
 「はあ……」
 歯切れの悪い返事を気にせず、少女は青年の手を取るとぶんぶん振る。しかしそこで青年との温度差をようやく感じたらしく、少女は小首をかしげた。
 「あれ、どうかしました?」
 「いや、どうしたも何も。俺は君の事を知らないんだが。何で会いたがってたか、も」
 「あ、これは失礼しました。私、シノノメ・ツバサと申します。貴方に会いたかったのは……その、憧れているからです」
 青年の目尻がピクリと動く。それに気づかずツバサと名乗る少女は致命的な言葉を投げかけた。
 「魔物の大群を相手にたった一人で退く事無く、全滅させた『英雄』……」
 「止めろ」
 青年はいきなり少女の言葉を遮る。どす黒い雰囲気が周囲に吹き出す。行き場のない怒りがその瞳の中に渦巻いているのが見て取れるほどに。
 「昔の話だ。今の俺はタダの怠け者だ。英雄とやらがお好きなら、魔王軍との最前線にでも向かうんだな」
 そう吐き捨てるように言い、荒々しい足取りでトキヤの中へリョウジは立ち去っていく。ツバサはすぐに追いかける事ができず、少しの間そのまま立ち尽くしていた。
 
 
 その後、冒険者ギルドに気落ちした様子で戻ってきたツバサを見て、受付の女性がやっぱり、と言う顔をした。その後、カウンターの中から出てきてツバサに近づく。
 「ほらほら、どうしたんだい、そんな暗い顔をして。何があったのさ? あの男に何かされたのかい?」
 「おば……お姉さんは、スズカ・リョウジさんの過去を何かご存知ですか?」
 受付の女性は思わぬ気遣いに笑い出す。
 「ハハハ。おばさんで良いよ。そんな事を聞くって事は、うっかり英雄とか何とか言った口かい?」
 ツバサが縮こまるのを見て、女性はバンバンと背中を軽く叩く。
 「気にするな、って言うのは無理なんだろうけど、気にしても仕方ないさ。アイツは英雄じゃない、なんて事を知ってるのはアイツ自身と僅かな生き残りだけだからねえ」
 「どういうことですか……?」
 女性は近くのテーブルにツバサを誘導し、座って話を始める。
 「ちょっと離れたところに、村があったのさ。今はもう無いがね。アタシもアイツもそこの出身でね」
 女性は少し遠い場所を見るような目になる。遠い場所にあったはずの景色を思い浮かべているのだろう。
 「アイツは『英雄の星』に生まれた子供だってんで、チヤホヤされてたのさ。事実、子供の癖に村の誰よりも強かったしね」
 「あ、聞いています。旅の冒険者達、それも手練を相手に喧嘩を売って全員を叩きのめしたって……」
 「そうそう。あの時はヒヤヒヤしたねえ。向こうの冒険者のリーダーがとりなしてくれて、何とか大事にならずに済んだけど」
 女性はカラカラと笑う。その後、表情が少し翳る。
 「その後の話は英雄譚として噂されたから、アンタも一部始終は知ってるだろ?」
 ツバサは頷く。
 十数年前。国境沿いの防衛線を突破した魔物の大集団はバレンタール連合国内を蹂躙した。当時はトキヤも前線からそこまで遠くなかったため、それなりの大きさの集団が流れてきたのだ。