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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第五章

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《第五章 うそつき》




「なんで、あんなひとたちを連れてきたんです!」

「おまえだって、流れ者をくわえこんだじゃないかッ!」

夫婦の罵りあいを権兵衛は背中で聞いていた。
濡れ縁に腰掛け、所在なげに足をぶらぶらさせていると、

「おじちゃんヒマ? 羽子板しない?」

ハナが右手に羽子と突き板を抱えてやってきた。もう片方の手には墨汁と筆がある。

「ああ、いいよ。やろうか」

濡れ縁から降りて相手をしてやる。
夫婦の話し声はいつしか聞こえなくなっていた。
ハナを相手に羽子板遊びをしていると、権兵衛の脳裏になぜか花津の姿が浮かんだ。
花津と夫婦になっていれば、いまごろはこのぐらいの娘ができていたはずだ。
……そう思うと遊びに集中できず、権兵衛は羽子をぽろぽろと突き落とした。

「おじちゃん、ヘタだなあ」

羽子を突き損なうたび、ハナが墨をたっぷりと含ませた筆を持って駆け寄ってくる。権兵衛の顔はたちまち真っ黒になった。

「正月でもないのに羽子板か」

突然、横あいから声が響いてきた。
振り向くと、例の用心棒三人組がにやにやと懐手をして突っ立っている。

「なんだおぬし、そのツラは」

「まったく、みられたもんじゃないぞ」

塚田と岩尾の嘲りに、ハナが嫌悪の表情をあらわにして権兵衛の背中に隠れる。

「どうだ小娘。おれたちともっといいことして遊ばないか?」

塚田と岩尾が権兵衛の背中に隠れたハナに向かってにじりよる。

「やめろ」

権兵衛が鍔元に手をかけ低い声でいった。

「やるか、面白い」

「相手をしてやるぞ」

塚田と岩尾も異口同音に鍔元に手をやる。

「よせ」

梶木源内が静かに制した。

「ゆくぞ」

梶木がやはり一同の頭目株のようだ。玄関にまわった梶木の背中を塚田と岩尾がぞろぞろとついてゆく。権兵衛に剣呑な視線を残して。

「おじちゃん……」

不安と心配の入り交じった目でハナが権兵衛をみあげている。

「遊びは終わりだ。あいつらが出てゆくまで奥の部屋に隠れているんだ」

「うん」

うなずくとハナは、羽子板一式を抱えて庭の奥に走った。

「おまえさんたち、なんてことを!」

今度は太兵衛の難詰する声が響いてきた。
どうやら昨夜の一件で用心棒たちは呼び出されたらしい。