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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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躑躅

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5



清掃会社に勤めて3カ月が経った。5人のグル―プ仲間ともすっかり仲良くなれ、掃除も駄目だしが少なくなった。とはいっても、ポリッシャ―だけは使えなかった。床のワックスがけに使うのだが、力も無く、真直ぐに進めない。まるで夕の人生の様なものだった。バランスのとり方が悪いのだろう斜めに行ってしまう。時間の関係もあり、先輩が変わってくれる。学生時代はいつも先頭に立って居た夕であるから、自分が悔しかったが、出来ないことがあるのだと知らされた。
 ある日。仕事が終わってタイムカードを押す時、社長が
「高1の娘に馬鹿にされてんだが、五月さんなら出来るかな」
と言って数学のテスト用紙を見せた。50点満点で7点だった。
「どうなさったんですか」
「テストの点が悪いから『塾にも行っているのに何だこの成績は』って言ってしまったら『パパだって大学出たんだからやってみたら』と言われてね。すっかりだよ」
五月は高1にしてはやさしい関数の問題だと思った。10分もあれば全問出来ると思ったが、社長の面子も考えた。
「女子は数学嫌いな子が多いから、私も自信ないけれどやってみます」
夕は椅子にかけて問題を解き始めた。時計を観ながら30分ほどして
「自信はありませんが出来ました」
と社長に手渡した。
「ありがとう。五月さんが解いたと言います。誇りです」
社長は嬉しそうだった。夕は何が誇りなのか自分には分からなかった。
 従業員の中に優秀な人が居ると娘さんに言いたかったのだろうか?それは間違いだろうと夕は思った。完璧な仕事をこなす先輩たちこそ清掃会社の誇りではないだろうか。
 翌日の帰りがけに娘さんに声を掛けられた。
「模範解答だって言われました。家庭教師になってください」
「偶然ね。家庭教師は無理よ。高卒だもの」
「お願いします。教える先生次第で数学も好きになれそうだから」
「子供もいるし、夜はだめなの」
「パパにお願いするから夏休みだけでも。昼間のお仕事の時間なら大丈夫でしょう」
「自信は無いですよ」
8月の夏休みから麗の数学を教え始めた。5人のグループから外れた訳で、仲間には家庭教師を頼まれたとは言わなかった。事務の仕事を頼まれたと言った。
夏休みが終わればまた仲間たちと働くことになり、良い関係は維持したかった。教え始めると、広木のことを思い出してしまう。来春は卒業のはずだ。もちろんよりを戻す気持ちは無い。だが、いつまでも独身で筆を立派に育てていけるのかと不安もあった。鈴木がもし、プロポーズしてくれたら受けても良い気持ちに傾いていた。
 夕は広木との事は過ちではないと思いながら、結果的には夢を観ていた人生から外れてしまったことに少しの後悔を感じていた。
 
 
作品名:躑躅 作家名:吉葉ひろし