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富士樹海奇譚 見えざる敵 下乃巻

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後述

 熊一は気がつくと精進湖の畔にいた。途轍もない大きな爆発が起こって、爆風に飛ばされて、氷穴の奥に流れる地下水脈に落ちたようだ。地下水脈は巡り巡って精進湖に繋がっていた。生き残ったのは錦七とふたりきりだけだった。
熊一は、恐るべき妖怪変化との戦いを思い返す気も無ければ、ひけらかすような気にもならなかった。いずれ親方様には報告を求められるだろう。だが、この世ならざるものとの死闘については。こうしていま生きていることすら、不思議でならない。そんな心持ちだった。
その夜、鳴沢で起きた爆発は天にも届くような雷鳴も凌駕する光を放ち、樹海の木々をなぎ倒した。身延山に陣を張る今川軍の知るところとなったが、余りの破壊力の大きさに武田軍恐るべし、と翌朝早々に後退を余儀なくされた。
 熊一は富士の頂を見つめた。この世ならざるあのケモノは果たして本当に神をも恐れぬ人間の所業によって生まれたのか。あの頂の上の天空から降りてきたという女のいたずらだったのだろうか。今では知るところではない。どちらにしろ熊一の理解を遥かに超える話だ。悪いことは忘れるに限る。そう熊一は決め込んだ。
だが錦七の言葉に怖気を覚えた。

「暑い夏になると、あいつはまた来るさ」