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イタコメール

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ケース3 広島県在住の鬼塚祐二さん(57才)会社役員


「指示どおり、おやっさんの携帯に例のイタコメールちゅうやつを入れておきました。さっそくサブの野郎からメールが来ちょりますけん、ちょっと見てやってつかァさいや」
 黒ずくめのスーツを着た男が電話機を差し出すと、指定暴力団鬼塚会の鬼塚祐二はそれを小指のない手で受け取った。革張りのソファにふんぞり返り、鷹揚なしぐさでディスプレイを持ちあげる。
「本当にこがいなもんで金の在り処がわかるんかいのう? わしァ県警に賄賂つかませて探り入れたほうが早い思うんじゃが」
「いえ、サブの死体は名古屋のほうで発見されちょりますけん、県警のほうでも、管轄外じゃ言うて取り合ってくれんのですわ。それにこのイタコメールちゅうやつは、通信会社のサーバへ侵入して過去の通信履歴をハッキングするらしいから、いろいろメールでやり取りするうちに、なにか手がかりがつかめるかも知れん、そがい思うちょります」
「ふん、ほうか」
 鬼塚は葉巻をもみ消すと、受信箱のなかを確認した。未読メールが一件届いている。差出人の名は、金山三郎。鬼塚会の元構成員で、一ヶ月前に組で集めた上納金を持ったまま出奔している。さっそくメールをひらいてみた。
【組長おひさ~( ´ ▽ ` )ノうぇーい! バイブスまっくすでお金持ち逃げしたけど殺されちゃってマジつらたん(´;ω;`)】
「なんじゃ、このふざけた文面はっ」
 あやうく電話機をぶち壊しそうになるのを、スーツの男がおしとどめる。
「あいつのシノギは、出会い系サイトで女子高生のふりをして買春目的の男たちから金を脅しとることじゃったんで……」
「ぐぬぬ」
 震える指でメールを送信する。
【われァ、組の金をどこへやったんじゃ!】
 すぐに返信がくる
【ガンダで名古屋へどろんしたのに秒でぶっちされてアンにゃっぴー でもあっちの連中オラついててまじバビッたおん(´・ω・|||)】
「おい、こいつなに言ってるのかわからんぞ。こんな、ちょっと通訳せえや」
「へい」
 スーツの男が、鬼塚のガラケーをのぞきこむ。
「ええと……どうやら名古屋の組織にそそのかされ、金をうばわれたあげくに殺されたようですな」
「名古屋の組織ってどこなら?」
「……さあ、そこまでは」
 鬼塚がふたたびメールを打つ。
【こんなを殺ったんは名古屋のなんちゅう組織なら?】
 返信が来る。
【ツイでいつも絡んでくれる汚友拉致の麺だおん】
「どうやらツイッターで知り合った連中のようですな」
「バカかあいつはっ」
 鬼塚は怒りにまかせてメールを打った。
【このバカたれ! それは本家へおさめる上納金じゃ】
【ひぇ~組長まじおこ(>ω<*)】
【カバチたれとらんと、さっさと金返さんかい!】
【今日わサブちん、いちごチャンでしょんどいの~(ノД`)・゜・。】
「おい、いちごチャンてなんなら?」
 血走った目で鬼塚がスーツの男を振り返る。
「たしか……生理痛のことだった思いますが」
 バキッとプラスチックの割れる音がした。ガラケーは鬼塚の手のなかで真っ二つに壊されていた。彼は不気味なほど低い声でククッと笑うと、スーツの男に向かって訊ねた。
「……こがいな役に立たんアプリ作ったんは、いったいどこの会社かのう」


作品名:イタコメール 作家名:Joe le 卓司