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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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第七章:ブルーラグーンの資格(2)-不穏な動き①



 盆休みの週が終わると、欠員二名の直轄チームは早速、慌ただしい雰囲気に包まれた。班長の松永2等陸佐が予言したとおり、上層部からの報告案件がいくつか舞い込んだ上、近隣の某大国に政情不安の兆候が見られ始めたからだ。

「松永2佐、実は一番お得な時期に休み取ったんじゃないですかね」
 問題の某大国に関する連絡調整を担うことになった小坂は、当該国の情報分析に携わる第4部から提供された厚めの資料に目を通しながら、一人ブツブツとぼやいた。その隣に座る宮崎は、うんざり顔の3等海佐の相手をする暇もなく、内線電話の受話器を耳と肩の間に挟んで、器用に書類をめくりつつメモを取っている。
「結果的にそうなった感じだねえ。確かに、今の段階では、まだ休暇中の人間を呼び出すほどでもないですし」
 小坂に同意する高峰も、いつもは口ひげを触ることの多い手を、パソコンのキーボードの上で忙しく動かしていた。
「今頃、松永2佐、某国の大統領に電話してるんじゃないですか? 『自分の休暇が終わるまで武力衝突は待ってくれ』って」
「『シマ』で一番に休暇取ったヒトは、文句言わずに働きましょう」
 班長代理を務める先任の佐伯が、幼稚園の先生を思わせるような口調で小坂をたしなめる。それが可笑しくて、美紗はついクスリと笑った。小さな吐息程度の声に、在籍する四人がほぼ同時に反応した。
「鈴置さん。なんか、ずいぶん元気になったみたいだね」
「夏バテだったんだって? もう具合はいいの?」
 美紗はギクリと顔を強張らせた。「直轄ジマ」の幹部たちは、どんなに忙しくても、仲間に気を配ることを忘れない。寡黙だった富澤が騒がしい小坂に入れ替わっても、それは変わらなかった。ありがたい反面、油断ならないともいえる。またあの店に行ける、という嬉しさに心が弾むのを、周囲に気取られるわけにはいかない。
 内心冷や汗をかきつつ、美紗は「おかげ様で……」と何とか返した。続く言葉を探しあぐねていると、美紗を呼ぶ女の声が聞こえた。
「美紗ちゃん、忙しいところごめん」
「あっ、大須賀さん。いらっしゃーい」
 美紗が応答するより早く、さっきまで仏頂面だった小坂が、満面の笑顔で第8部所属の大須賀恵に話しかけた。大須賀は、濃い化粧をした顔をわずかに歪ませ、「どうも」と不愛想な会釈を返すと、再び美紗のほうに視線を向けた。