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湯川ヤスヒロ
湯川ヤスヒロ
novelistID. 62114
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ユウのヒトリゴト[3]

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 大阪の天神橋筋六丁目駅。通称・天六は、阪急電車と大阪市営地下鉄堺筋線が乗り入れてる駅です。
 その天六から京都方面へむかう阪急電車に揺られ約40分ほど。途中2回ほど乗り換えると、京都府大山崎町にある大山崎という駅に着きます。ここがボクの最寄りの駅です。
 厳密に言えば、ボクが住んでるのは長岡京市というところなんですが、距離的には隣町にある大山崎駅のほうが近いんです。この10年後に、長岡京と大山崎の間に新しい駅ができ再開発もされて便利になるんですが、そのころはもうボクは大阪に住んでました。

 大山崎町は小さな田舎の町です。ですが東京とかに住んでる人でも、大山崎と聞いたらピンとくるんじゃないかという有名なモノがいくつかあります。
 ひとつはこの大山崎町にある、酒造メーカーが構えるウイスキーの蒸留所。山の中にそびえ立つこの蒸留所は、電車の中からでもかなり目立ちます。数年後にマッサンという朝ドラが放送された時は、舞台のひとつにもなったこの蒸留所に、全国から多くのお客さんが来てにぎわいました。ここで作られるウイスキーは、地名の山崎がそのままブランド名にもなってて、お酒好きの方には言うまでもないんじゃないでしょうか。
 そしてもうひとつ有名なのが、戦国時代ここであった、山崎の戦いです。本能寺で織田信長を討った明智光秀の軍と、中国地方から戻った羽柴秀吉の軍がここで対峙。この地の山、天王山を制した方が天下を取るとされたことから、天王山は現在でも、スポーツなどの重大な局面を表す言葉として有名になってます。ちなみにその天王山は、ウチの実家の畑から続く山道から登っていけます。

 その大山崎駅から家に帰るまでの帰り道。その途中に一軒の小さな美容室があります。そろそろ髪の毛切りたいな~と思ってたボクは、その店に立ち寄りました。
 ガラス戸の外から見ると、今の時間はお客さんはいませんでした。ボクが小さなトビラを開けて店内に入ると、カウンターにいた店主のオジサンが出迎えてくれました。

「おお! ユウ君、いらっしゃい!」
「どーも」
「ひさしぶりやなー! もう高校卒業したんやっけ?」
「先月ハタチになりましたよ。来月、成人式ッス」
「おお、そやったっけ? ハハハハッ! で、今日は?」
「髪、のびてきたから、カットしてもらお思て」
「了解!」
 コートを脱ぎ、バッグと原稿を待ち合いのソファーに置きながらオジサンと他愛も無い話をしていると、店の奥から一人の女性が出てきました。
「いらっしゃい……ってなんや、ユウかいな」
「なんやとはなんやねん…」
 とても普段、接客しているとは思えないくらい無愛想な態度でボクに話しかけてきたこの女性。ボクの姉です。この店で美容師として働いてるんです。
「今、姉ちゃんしかおらんの?」
「うん。この時間ヒマやから」
 ボクの質問に姉ちゃんが答えると、オジサンがそれにおもわずツッコみました。
「ヒマとはなんやねんなぁ~。まぁええわ。ユウ君、悪いな。ウチのカリスマ美容師はまだ誰も来てへんねん。お姉ちゃんでガマンしたってや」
 ハハハと笑いながら言うオジサンに、姉ちゃんがムッとしながらカットの準備をしていました。そんな姉ちゃんとオジサンのやりとりを見ながら少し笑ってもうたボクは、姉ちゃんの準備した席に座りました。姉ちゃんはハサミとクシを手に持ち、ボクの髪をゆっくり触りながら話しかけてきました。

「髪のびたなぁ、しばらく見いひんうちに」
「ホンマひさびさやな。ボクの誕生日の日、帰ってくると思てたのに」
「なんでアンタの誕生日だけのためにわざわざ帰ってこなアカンのよ」
「わざわざて……近所やんか」
 そんな姉ちゃんとのやりとりを、オジサンが「相変わらず漫才みたいやな」って言うて笑ってる姿が鏡越しに見えました。別に漫才とかちゃうし。ひさびさに会うても、ボクら姉弟は憎まれ口みたいなことしかしゃべりません。
 この美容室は地元なんですが、姉ちゃんはここの美容室の友達と一緒に暮らしてて、実家からは離れてるんです。ちょうどこのころは、ルームシェアが流行ってたころでした。
 姉ちゃんと会うのはお盆休み以来やから、ちょうど4ヶ月ぶりです。

「今日はカットだけ?」
「うん」
「染めへんの? 今日切ってもうたら、もう黒髪だけになるで?」
「今、働いてるバイト先の店長が今度変わるやけど。新しい店長マジメな人みたいで、黒髪やないとアカンみたいで」
 ボクは高校卒業してから茶髪に染めてて……まあ今でもたまに染めるんですけど。この当時アルバイトしていた店の店長はけっこう寛容な人で、明るくない色なら髪染めててもオッケーやったんですけど、次の年から新しく変わる店長がキビシイ人で、しばらく髪染めるのはヤメるとこやったんです。

「へー、そおなんや。アンタ、今ドコでバイトしてんの?」
 慣れた手つきでボクの髪の毛にハサミを入れながら姉ちゃんが尋ねてきました。離れて暮らして以降、姉ちゃんはボクの近況を知ることはあんまりありませんでした。
「手作り総菜のアンズキッチン。長岡天神の」
「ああ、駅前の? 手作り総菜て、アンタが作ってんの?」
「ちゃうよ。ボクはバイクで宅配する担当。ほとんど店と宅配先を行ったり来たりしてるわ」
「そおなんや。でも配達してへん時は、調理とかもするんやろ?」
「配達無い時はレジにおるか、厨房の掃除や。ボクが料理でけへんの、姉ちゃん知ってるやろ? 覚える気も無いし」

 ボクはこのころ、料理なんかカラッきしダメで……ってゆうても、今でも苦手ですけど。この時はホンマに、野菜の切り方も知りませんでした。実家、農家やのに。
 そんなボクの話を、姉ちゃんは手早くボクの髪を切りながら、ため息まじりに返してきました。
「料理でけへんからやらへんなんて……アンタはそうゆうところがアカンねん」
「わかってるけど……」
「けど、なんや? あんなぁ、アンタももう子供とちゃうねんから、料理苦手でもチャレンジしていかんと、生きていかれへんで」
 姉ちゃんの小言がはじまってしまいました。姉ちゃんはムカシから、ボクが何かグチをこぼすたんびに、それに反論するようにブツブツと小言を言ってくる人でした。

 姉ちゃんは正直、ボクから見てメチャメチャスゴイ人です。高校の時に部活と両立しながらコツコツアルバイトでお金貯めて、理容専門学校に入学してそこに通いながら同時に美容を通信で学んで、理容師と美容師の両方の資格を取って。ほんで、今こうして自分の夢やった仕事を実現してるんですから。
 自分の夢を自分のチカラでつかんだ人が身近にいる。だからこそ、自分の夢を叶えたくても文句ばっかり言うてのらりくらりと過ごしてるボクのことを見ていたら腹が立ってくるんでしょう……

 軽快な手さばきを続けながら、姉ちゃんはまた大きくため息をついてボクに話を続けてきました。
「そういえば、プールとか行ってへんの?」
「あ~、夏に行ったで。ひらパーのプール。高校ん時の友達と…」
 ボクがそう言うと、姉ちゃんはクシを持ったほうの手首で軽くボクの頭を小突き、あきれた声で言いました。
「遊びのプールとちゃうがな! 水泳はしてへんのかって聞いてるんや!」