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「…お金、持ってるの?」

 水無月さんの問い掛けに、ン・ウカショが即答しました。

「持ってませんが…小生の魔力で作れます。」

 自信たっぷりに答えた ン・ウカショに、水無月さんが断固とした表情を見せます。

「偽札は…駄目!」

「─ お固いですなぁ。それじゃ…参考用に所持しているものがありますので、今回は それを使う事と致しましょう。」

「見せて…」

 訝しむ水無月さんに促されて、鏡の中の ン・ウカショが懐から取り出したもの…

 それは、アフリカ某国の<100兆ドル紙幣>でした。

「それ…日本では使えないし、現地でも もう使えないはず…」

「え?」

「そもそも、0.3円の価値しか無いから…ケーキセットなんか無理。」

 失望の色が、水無月さんの瞳に閃いた事に気が付いてン・ウカショは慌てます。

「ならば…さ、砂金では!」

「ケーキセットの代金…砂金の重さでは払わない」

「…な、何とか致します! し、暫しのご猶予を!!」

 焦る ン・ウカショに、水無月さんは 静かに告げました。

「召喚は…又の機会。」

「そ、そんな!」

 鏡の向こうで、ン・ウカショは取り乱します。

「か…必ず、どうにか致します! それ故、ぜ、是非とも、今直ぐ召喚を!」

「もう、眠たいから。」

 呟いた水無月さんは、顔を正面に向けたまま、スイッチに手を伸ばしました。

 その動作に気付いて、狼狽えるン・ウカショ。

「み…水無月、殿?」

 部屋の明かりを消し、何も無かったかの様に、洗面台の前から姿を消す水無月さん。

 ン・ウカショは、鏡の中から 必死に訴えます。

「水無月殿…み、水無月殿! ご、御無体です!!」
作品名:お見受けします。 作家名:紀之介