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いい湯だね

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男湯といえば、当然のことだが男ばかりである。その中に女性がいれば、興味も注がれそうなものだが、誰一人意識の中に不思議がる者がいないほど、その女の子は幼かった。

父親の手助けがなくても 衣類を脱ぐことはできる。教えられたのか、着てきた服を袋の中に入れて父親と同じロッカーに突っ込んだ。手渡されて大事に持っていた木札の鍵もその中に入れると、男性は鍵をかけ、その鍵についているゴムを手首にはめた。

片手に浴用タオルを持ち、きれいに手入れされている浴場の床で滑らないようにと父親に手を引かれて 浴場へと入っていった。

湯気で視界を奪われた女の子は、入り口のわずかな段差に足をふらつかせた。
父親の握る手に力がはいる。ここで怪我をさせてはいけないという親心だろう。
「すべったね。びっくりしたね」
女の子は、 父親を見上げて安心した笑顔を見せた。
積み上がった手桶をひとつと予備で置かれた腰掛を取って、壁際の蛇口の前に座った。
大きな背中とその半分もないような背中が並んでいた。

父親は、湯温を確かめながら蛇口を開き、女の子の背中に掛けた。
「あちち」と女の子は お尻のあたりを掻いた。冷えていた体にかけられた湯で皮膚がかゆく感じたのだ。
「ははは。まだ熱かったか? 今度はもう大丈夫だよ」
父親は、女の子のおかっぱの髪を洗い、ぎゅっと目を閉じた頭から湯をかけた。きっと一生懸命我慢をしているのだろう。ちいさな全身に力が入っていた。
「よし、頑張った。次は身体だ。おとうさんの背中を洗ってくれるか?」
女の子は、父親から石鹸の付いたタオルを受け取ると その背中に擦りつけた。
「も少し力を入れて ごしごしと頑張れ!」
女の子は、体を上下に屈伸しながら父親の背中を擦るのだか、力は 父親の満足からはかけ離れているようだ。
しかし、一生懸命に泡と格闘している娘を鏡越しに微笑ましく見ていた。
「ありがとう。今度はお父さんが洗ってやる」
父親の手に広げられたタオルは、ひといきに女の子の背中を洗えてしまえるほどで 数回も擦れば十分洗うことができた。

作品名:いい湯だね 作家名:甜茶