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紅艶(こうえん)

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 澄ましていると何処かこの田舎町にはそぐわないかと言う程の美人だが、「こんにちは」と挨拶された笑顔がとても親しみやすかった。奥から父と母が出てきて、挨拶をする
「鈴目です。鈴目守です。妻の莉(れい)です」
 二人とも何となくぎこちない。僕は父に言われる前に
「隆です。宜しくお願い致します」
 そう自己紹介をした。間近で見ると、うっとりとするような綺麗な人だった。
 透き通る様な白い肌、艶やかな黒髪。このような髪の色を『烏の濡れ羽色』と表現するのだろうと思った。
 背もすらりとして高い方だと思った。それに何より着ている服のセンスが良い。きっと都会生まれなんだろう。もしかすると東京ではないか、都会の女性はやはり違うと思った。

 挨拶が住むと、佐伯さん自身は遠慮したのだが、僕は寿不動産の小父さんと一緒に、わずかばかりの荷物を軽トラから降ろして、離れに運び込んだ。気に入られたいと言う下心だった。
「本当にどうもすいません」
 佐伯さんは荷物の中から菓子折りを出し、僕に渡して
「宜しくお願い致します」ともう一度言ってくれた。
「わざわざ、ありがとうございます」
 そう言い残して、母屋に帰り、両親と一緒に菓子折りを開けてみると「コランバン」と言う僕も聴いた事がある東京の有名な菓子店の詰め合わせだった。やっぱり東京から来た人だったんだ。僕は何となく嬉しくなった。
 
 その日は佐伯さんを夕食に招き一緒に食べたのだが、僕の目の前で上品な仕草で食事をして、父や母の話題にも明るく対応する佐伯さん、いや惺子さんをぼおっと眺めていた。見ているだけで胸が一杯で殆ど何も喉を通らなかった。
 僕の様子に気がついた惺子さんは
「どうかしましたか? 具合でも悪いとか……」
 その黒く透き通った瞳で僕を見つめながら心配そうに尋ねてくれる。その行為だけでもう僕は胸が一杯になる。
 これは憧れだろうか? それとも恋なのだろうか?

 結局、先に部屋に下がらせて貰った。自分の部屋に帰り、ベッドの上で横になって目を閉じると、先ほどの間近にあった惺子さんの美しい顔が浮かんで来る。これはやはり一目惚れでは無いのだろうか?
 ふと気が付くと、僕の部屋の窓から離れが見える事を思い出した。今までは無人の空き家だったから特別注意も払わなかったが、これからは惺子さんが、あの離れに居ると思うと心がざわめくのを感じたのだった。
 暫くすると離れに灯りが点いた。流石に人影は見えないが、自分の家の離れにあのような素敵な人が居ると想うだけで嬉しくなった。
 そう思っていたら、母が部屋にやって来て
「佐伯さん。今日はウチでお風呂に入って貰うから、あなた先に入る? それとも後にする?」
 そう尋ねられたので
「父さんと母さんは?」
「後にするわよ」
「じゃあ、僕もそうする。先に入って貰っていいよ」
 それを訊くと母は離れに出向いた。きっと惺子さんにお風呂に入る様に言ったのだろう。暫くの間があって、惺子さんは恐らく着替えとかタオルとかが入っているバッグを小脇に抱えてやって来て
「申し訳ありません。それでは戴きます」
 そう言って風呂場に消えて行った。僕はわざわざ部屋から出て来て、その姿を出迎えたのだ。

 暫くして惺子さんは濡れた髪にタオルを絡ませて赤い顔をして出て来た。既にパジャマ姿になっていて、傍を通ると何とも言えない良い香りがした。石鹸の匂いだけでは無いと思う。
「隆、入っちゃいなさい」
 母の言葉に素直に従い、着替えの下着を持って風呂場に降りて行くと、洗面台に見慣れない化粧瓶があった。僕は母に「これなに?」と訪ねると母は半分薄笑いの表情をして
「ああ、佐伯さん忘れたみたいね。届けてあげたら?」
 この時、母はどういうつもりで言ったのか知らないが、僕は例え僅かであっても、あの離れで例え僅かな時間でも二人だけになれるのが嬉しかった。
 その化粧瓶を持って玄関を出て離れに向かい、離れの玄関で声を掛けると惺子さんはすぐに出て来てくれた。
「今、お風呂に入ったら、これを見たので、忘れ物かなと……」
 これだけの事を言うのに結構ドキドキしてしまった。
 と言うのも、お風呂あがりの惺子さんは、少し髪が乱れていて、とても艶やかだったからだ。
「ああ、ありがとうございます。わたし忘れっぽくて」
 惺子さんはそう言いながら僕の手に持った化粧瓶を、やや前屈みになり受け取った。その時、惺子さんのパジャマの胸元が信じられないくらい大きく開いて、白く深い胸の谷間が覗いた。僕はドキッとして目を奪われてしまって、胸元に目が吸い付けられてしまう。いつまでも見ていたかったが、やっとの思いで目をそらす。惺子さんはきっと僕の思惑なんか知らないのだろう。まさか僕が自分の豊かな胸の谷間に目が釘付けになっているなんて考えてもいないはずだ。だから魅力的な笑顔を見せてくれたのだ。それにしても惺子さんは着痩せするのだと思った。正直目眩がするほど魅力的だった。
「いいえ、なくさなくて良かったです」
 僕はそれだけを言うのが精一杯で、急いで離れを後にした。家に帰って、すぐに湯船に飛び込んで、一旦頭まで潜って顔をだす。少しは冷静になれただろうか? まだ心臓の鼓動が早い。
あれだけの綺麗な人であんなに胸が豊かなんて……そんな素敵な人が自分の家の離れに住むなんて夢かと思う。
 でも良く考えると滑稽で、普通に見れば只の女性の家作人なのだ。今日の僕はどうにかしている。日常と余りにも違う事ばかりが起こるので、どうにかしたのだろう。そう結論付ける。
 カラスの行水宜しくすぐに出ると自分の部屋に帰り、窓から離れを眺める。先程の光景が鮮やかに蘇る。やっぱり今日の僕はどうにかしている。
 それから二日程惺子さんは我が家の風呂に入りに来た。流石に忘れ物はしなかったが……少し期待した自分が恥ずかしかった。
 
 高校の終業式に行く日、朝家を出ようと自転車を出していると惺子さんから声を掛けられた。
「隆さんは何処の高校に通われているのですか?」
「はあ、この先の誠明学園高校です。あまり大した学校じゃありません」
「あら、自分の高校をそんなに悪く言うものではありませんよ」
 惺子さんは、さわやかな笑顔で僕を窘めると
「私も自転車を持って来ましたので一緒に行きませんか?」
 そう、変な事を言ったのだ。
「はあ? 誠明学園に何か用ですか?」
 僕は微笑んでいる惺子さんに尋ねてみた。
「はい、理事長や校長先生にご挨拶しようと思いまして」
 僕は惺子さんの言っている意味が良く判らなかった。ぼんやりと聞いていた僕に惺子さんは
「ええ、この春、新学期から講師として通いますから」
 何と言う事だろうか、淡い恋心を抱いた女性は僕の高校の先生になる人だったとは……
 余程、おかしな顔をしていたのだろう。惺子さんいや惺子先生は
「良いですか? 一緒に行きましょう。良ければ新学期からも一緒に」
 これは喜んで良いのだろうか? それとも不幸の始まりだろうか? 僕の心は複雑にその両者が絡みあっていた。
「どうでしょう? 良いかしら?」
作品名:紅艶(こうえん) 作家名:まんぼう