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あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

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食堂

  その日は食堂で昼を食べようと思い食堂に行くと、そこには小糠がいた。小糠は席の端にぽつんと一人で座っていて、何処か心許なさげな表情を浮かべていた。
 俺は食堂でラーメンを頼んで、出来上がったラーメンを運びながら小糠に近付いて、彼女の向かいに腰を下ろした。

「よお」

 小糠は俺を見て目を見開いて、安堵するように息をつく。

「波多野先輩、こんにちは」

「今日は一人で食堂か?」

 問い掛けると小糠は「はい」と頷き、眉を下げる。

「お弁当を家に忘れてきてしまって。購買でパンを買おうかとも思ったのですが、全て売り切れてしまって……それで食堂で食べようと思ったんです」

「なるほどな」

「……一人で食堂を使うのは初めてで、何だか落ち着かなくて……だから、波多野先輩に会えて良かったです」

 嬉しそうに笑う小糠に、ドキリと胸が鳴るのを感じて、俺は小糠から視線を逸らす。

「……俺も、小糠に会えて良かったよ」

 小さく言って、箸を掴んでラーメンを口の中に入れる。

「……うめえ」

 口の中に広がる味に頬を緩める。

「私、ラーメンは食べたことがないです。今度食べてみようかな」

「ここのラーメンはうまいからオススメだぜ」

 小糠を見ると、彼女はうどんを頼んだようで、うどんをずるずると食べている。

「……美味しいです」

「へぇ。俺、うどんは食べたことがないんだよな。今度食べてみるわ」

 そう言うと、小糠はにこりと笑う。

「波多野先輩と一緒に食べるの、何だか楽しいです」

「……俺も楽しいよ」

 小糠に笑いかけると、小糠は照れたように目を伏せる。
 小糠と他愛ない話をしながら俺はラーメンを食べた。
 やがてラーメンを食べ終わり、席を立つと、小糠が「波多野先輩」と俺を呼んだ。

「よろしければでいいんですけど……また波多野先輩と一緒にお昼を食べたいです」

 思わぬ誘いに、俺は内心でガッツポーズをする。

「勿論いいぜ!また食堂で一緒に食べよう」

「ありがとうございます!……あ、みーくんも誘いますね、みーくんがいたらもっと楽しくなりそう!」

 俺はずご!と思わずずっこける。
 俺としては河原がいない方が楽しいんだけど……。

「みーくんもここの食堂を気に入ると思います!ああ、その日が楽しみだな~」

 無邪気に笑う小糠に、俺は内心でがくりと肩を落とし、まあ、小糠が楽しければいいか……と息を吐くのだった。