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われらの! ライダー!(第三部)

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3.番外編:搭乗ゲート



(2016.11 お題:『紅をさす女性のイラスト』 この月のお題はイラストでして、イラストが先にあって、それから連想して物語を作る、という試みでした、番外編として志のぶと剛のなれそめなど……参考URL http://www53.tok2.com/home2/natsuka/gallery196.html)

われらの!ライダー! 番外編 『搭乗ゲート』


「よう、おねぇちゃんよ、坊ちゃんがあんたに用があると仰ってんだ」
「手を離してください!」
「大人しく坊ちゃんの隣に座って、お酌して差し上げればそれでいいんだ」
「ここはそういうお店じゃありません!」
「そう硬いこと言うもんじゃねぇよ」
「お断りします!」
「ああ? お前ぇ、誰に盾ついてんのかわかってんのか?」

 『坊ちゃん』と呼ばれた男は昔で言う庄屋の血筋、今でもこの辺りの農家には絶大な影響力を持つ実力者の息子。
 父親の権力を自分の力と勘違いし、ゴロツキを取り巻きにして我が物顔でのし歩いていている嫌われ者だ、今日も二人のゴロツキを従えている。
 女ったらしでも名を馳せているから『お酌だけ』ですまない事は、この辺りの住民なら誰でも知っていることだ。

「いいから、こっちに来いってんだ」
「やめてください!」
 絡まれた女性は志のぶ・二十一歳、この辺りの農家の出で、高校を卒業後祖母の畑仕事を手伝う一方、週末となれば街道筋にある『昔ながら』と言った風情のドライブインでウエイトレスとして働いている。
 農家と言っても父親は地元企業で働くサラリーマン、三人姉妹の末っ子で、上の姉は既に嫁ぎ下の姉は大学に通っている、志のぶも学校の成績は悪くなかったのだが大のお祖母ちゃんっ子で、代々続いている畑を今でも守る祖母を手伝うことを選んだのだ。
 
「ぎゃっ」
 下品な悲鳴を上げたのはゴロツキのほう、志のぶは祖母から教えられた護身術を身につけている、掴まれた腕を振りほどき、さかさまに相手の腕をねじ上げたのだ。

「このアマ!」
 ゴロツキたちが気色ばむ、いくら護身術を心得ているといっても相手は大の男三人、女一人ではいかんとも……。

 その時……。
「さっきから黙って聞いてりゃ、あんたらオイタが過ぎやしねぇか?」
 立ち上がったのは隅のテーブルで食事をしていた男、どうやらトラックの運転手らしいが、がっちりとした大男だ。
「関係ねぇ奴はすっこんでろ」
「そうも行かないな、俺が引き下がったらそのお嬢さんのピンチのような気がするんでね」
「野郎!」
 ゴロツキの一人が拳を振りかざして殴りかかる、しかし大男は眉ひとつ動かさず素早く前蹴りを繰り出した。
「ぐへぇぇぇぇぇ」
 大男の蹴りを腹に食らったゴロツキはその場で膝をつき、腹を抱えてのた打ち回る。
「痛ぇ、痛ぇよぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「おい、あれを……」
 『坊ちゃん』は床を転げまわるゴロツキを一瞥すると、助けるでも声をかけるでもなくもう一人のゴロツキになにやら指示を出し、ゴロツキは店の外へと飛び出して行った。
「偉そうにするだけあって、ちっとはやるようじゃないか、だがな、この俺を怒らせると為にならねぇぜ」
「坊ちゃん、どうぞ」
 戻ってきたゴロツキが差し出したのは日本刀、『坊ちゃん』はそれを抜くと鞘をゴロツキに投げ渡す。
「言って置くが、ちゃんと刃がついた本物だぜ、無銘だが切れ味は本物よ」
 『坊ちゃん』はそれをドスっとテーブルに突き立てて見せる。
 確かにメラミン合板のテーブルに刺さる本物だが、大男はそれを見てせせら笑った。
「何がおかしい? 腕の一本も切り落としてやろうか?」
「ああ、そいつは無理だね、もし俺が切れ味を見せたいなら椅子の背でも切り落として見せるところだ、お前さんにはその腕はないんだろう?」
「ははは、ばれたか、確かに我流だよ、腕を切り落とすのは無理かも知れねぇ、でもな、骨まで見える傷を作ることは出来るぜ、腹に突き刺して血反吐を吐かせることもな」
「そいつは、俺にそいつを当てられたらってことだろう?」
「ふん、余裕こいていられるのも今のうちだけだ」
 『坊ちゃん』が不敵な笑みを浮かべると同時に、ゴロツキが後ろから大男に飛びかかる、いつの間にか後ろに回っていたのだ。
「そんなことだろうと思ってたぜ」
 大男がそう言った時には、ゴロツキは背負い投げを食ってモルタルの床に叩きつけられていた。
「ぎゃっ、腰が、腰が折れたぁぁぁぁ」
「大げさな奴だな、そんなに強く投げちゃいないぜ、まあ、しばらくはしびれて立てないだろうがな」
「手前ぇ、空手か柔道の心得が?」
 『坊ちゃん』の顔つきが変わった、3対1なら強気だが、1対1で、相手が武道の心得があると知ると、急に怖気づいたらしい。
「いや、お前さんの剣術と同じで我流だよ、まあ、小せぇ時分から喧嘩に明け暮れてたからな、言うなれば実戦流ってとこかな?」
「こ、こっちには刃物があるんだぜ」
「だから言っただろう? 当てられなきゃ意味はねぇって、どうすんだい? その娘さんに頭を下げて、金輪際手出ししねぇって謝るんなら見逃してやってもいいぜ」
「ふざけるんじゃねぇ、そんなみっともねぇ真似ができるか!」
「自分の非を認める度量もなくて、無駄に虚勢を張るほうがみっともねぇと思うがね、まあ、そう言うんなら相手になるが」
「野郎っ!」
「無駄だ無駄だ、腰が引けたまま無闇に刀を振り回したって当るもんじゃねぇよ」
「ぎゃっ!」
 短い悲鳴と共に『坊ちゃん』が刀を取り落とした。
 盲滅法切りかかってくるところを、大男は冷静にかわして右手で右手首を掴み、左腕で二の腕を抱えて肘を極めたのだ。
「腕が、腕が折れたぁぁぁぁ」
「お前も大げさだな、靭帯くらいは伸びてるだろうが、折っちゃいねぇよ」
 肘を抱えてうずくまる『坊ちゃん』を尻目に、大男は元の席に座ると言った。
「すまないが水を一杯もらえるかな、ちょっと暴れて喉が渇いた、麦茶ならなお嬉しいんだが……」
「あ、はいっ、ただいま」
 あっけにとられていた志のぶだったが、我に返って麦茶を注ぎ、大男のテーブルへ。
「ありがとうございましたっ!」
 志のぶは麦茶を置くと、深々と頭を下げた。
「あんた、肝が据わってるなぁ」
「え?」
「普通、こんな騒ぎの後だと手が震えてるもんだ、さっきの合気道みたいなのも見事だったぜ」
「え? あ、そんな……」
「若いのに大した……危ねぇっ!」
 志のぶは大男に不意に肩を突かれて横転した。
 
 ガキィン!

 日本刀が床に打ち付けられた音……『坊ちゃん』が立ち上がり、左手一本で日本刀を振り下ろしたのだ。
 もし突き飛ばされていなければ今頃背中から……。

 大男の血相が変わった。
「手前ぇっ! 狙うなら俺だろうが! 娘さんを狙うたぁどういう了見だ!」
「そ、そいつのせいで……そいつが大人しく俺に従っていれば……」
「全く……救い様がねぇな、手前ぇみたいな奴が一番嫌ぇだ!」
「うるせぇ!」
 『坊ちゃん』は左手で日本刀を振りかぶるが、それを振り下ろすより早く大男の拳が空気を切り裂いた。
 左フック一発、それを顎に受けた『坊ちゃん』はその場に崩れ落ちた。