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文明の起源 ~ ギーザの記憶 ~

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 調査団のメンバーは色めきだった。
「……前に滞在した時にも、あなたがた地球人や犬や鳥のマスクをかぶったりしていました……素顔を見られるのって……恥ずかしいので……」
 考古学者は納得した。犬の頭部を持つアヌビス、鳥の頭部を持つホルスだけではない。エジプト神話には、大きな白い布をかぶり、目と膝下を覗かせているだけの姿の神すらいた。メジェド、と呼ばれる神である。
「解ります、解ります。あなたがたに関する我々の記憶は、この地に神話として継承されています」
 彼は、やはり姿勢も目線も変えること無く、頭部のほうからくぐもった声を出した。
「……神話ですか……そういえば……カッコいいと思って……いろいろな武勇伝を、創作しましたが……」
 砂漠は、既に薄暗くなってきていた。
 異星人相手でなければ耐えかねるような遅々とした受け答えは、真偽不明の衝撃的内容を明らかにしていったが、照明を持参してこなかった上に疲労と空腹に襲われていた調査団は、その日のコミュニケーションを打ち切ることにした。
 その日は、ジャーナリストが頼んで彼らのひとりと写真映りが良さそうな言語学者の女性をくっつけたものを含む、何枚かの記念撮影をすることで幕を閉じた。

 この交流の内容は、世界中の人々の強烈な関心に応え、国連の許可のもとに、直ちに大メディアに公開された。
 これはもちろんインターネットでも話題をさらったが、中でも、記念撮影のうちの一枚が注目を浴びた。
 そこには、親密な雰囲気を演出したいジャーナリストから求められて若く美しい女性言語学者の肩に回した「彼」の手が、彼女の肩をつかもうかつかむまいか逡巡しつつ、結局宙をつかんでいるのがはっきりと映されていた。
 このいわゆる「ホバーハンド現象」をもって、インターネットでは、「俺たちにはこの異星人の気持ちが解るぞ!」「届かない手が届けた思い!」などという、奇妙な感動が巻き起こった。

 人類と「彼ら」の友好は、深まっていくものと期待された。
 が、しかし……翌朝にはあっさりと、彼らも、浮遊物体も消え去ってしまっていた。
 ただ、砂地に、「ホバーハンドをバカにされて恥ずかしいので帰ります」という一文を残して……。

 人類は、友人と、新知見を入手する機会を逃してしまったようだった。
 今でも、言語学者の彼女は考える。
 大昔にも似たようなことがあって、繊細な彼らは、私たちのもとを去ったのかもしれない。
 でも、何だかとてもさみしがりのような感じがしたから、またいつか……それが数千年後か数万年後かは分からないけれどまたいつか、三度目の訪問をしてくれそうな気がする……。
「ただ、今度は、精神的にもっとタフになってから来てほしいな」
 写真を見ながら、彼女は微笑んだ。

【完】