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銀の錬時術師と黒い狼_魔の島

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 レギウスはリンを突き飛ばす。リンは小さな悲鳴をあげて前のめりに倒れる。
 レギウスは深く息を吸い、身体ごと後ろに向きなおる。
 死んだ神がたたずんでいた。肩を怒らせ、両方のこぶしをギュッとにぎって。むしりとられた顔面に表情はない。それでも、レギウスは男の全身から放たれる憎悪のオーラを感じとることができた。
 レギウスは震えの止まらない腕を持ちあげて〈神の骨〉をかまえる。背中にリンの視線を感じた。声を押し殺して、彼女に呼びかける。
「リン、逃げろ!」
 リンが返事をする間もなく──
 かつては神を宿していた死肉のかたまりが動きだす。
 レギウスは死を覚悟する。不思議と恐怖はない。しびれるような達成感が胸の空隙を埋めていく。
 その刹那(せつな)──
 〈神の骨〉が溶けた。
 刀身が白くぼやけて、レギウスの面前に妖刀の化身である少女が現れる。
 真っ白の、人間(ひと)の姿をした人間(ひと)ならざる少女。華奢な両手を横に広げ、レギウスの前に断固として立ちふさがる。
 神のゾンビの動きが止まる。男と少女が対峙する。
 少女の背後にいるレギウスからは彼女の表情が見えない。けれども、なんとなく想像はついた。悲しげな顔つき。きっとそんな顔をしている。
 数秒のあいだ、両者は無言で向き合っていた。
 言葉が聞こえないだけで、意志の疎通はあったのかもしれない。レギウスにはうかがいしれなかった。
 狂ったように早鐘を打つ鼓動。後ろでリンの身じろぐかすかな衣ずれの音。空気がざわついて、レギウスの黒髪をそっと揺らす。
 男が肩を落とす。ゆっくりと首を横に振る。
 そして、死んだ神は闇の奥へと立ち去っていった。