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紅装のドリームスイーパー

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Memories Level.3 ──いまから一年前、中学三年生


 大樹は高校野球の名門校である県外の私立高への進学を早々と決めていた。もとより、おれたちと同じ学校へ行くつもりはさらさらないだろう。菜月があんなことになったあとでは……。
 おれはまだ進学先を決めていなかった。両親からは公立校を受験しろ、と釘を刺されている。学費が高い私立は論外。公立でも、家からいちばん近い県立の城南高校はレベルが高すぎておれにはムリ。となると、それ以外の県立校しかない。
 そこそこ近くて、適度なレベルの学校となると、北山高校か、もしくは桜ケ丘高校か、そのどちらかになる。
 学校の昼休み。
 弁当を食べ終わったおれは、窓の外の雲をのんびりとながめていた。
 初夏の空に入道雲が高く立ちのぼっている。西の空が暗い。ときおり、遠くで稲妻がひらめく。雨になるかもしれない。傘を持ってこなかった自分のうかつさを呪う。
 北山か、桜ケ丘か──正直、どっちでもかまわない、と思った。それこそコイントスで決めたっていい。桜ケ丘のほうが若干距離は近いが、自転車でわずか数分の差だ。大学への進学実績も目立って差異があるわけじゃない。制服だって似ている。公立校なんて、どこもそんなもんだ。
 女の子の声が耳に飛びこんでくる。もう十年以上も聞きなじんだ声。
 おれは窓から視線を離し、声のしたほうへ首を向ける。教室の後方。廊下側の席に数人の女子が固まっている。そのなかに花鈴の姿があった。席に座った女子と声高にしゃべり、ときおり甲高い笑い声をあげている。おれには目を向けようともしない。
 今年のクラス替えで、花鈴とは別々のクラスになっていた。おれが花鈴のクラスへ足を運ぶことはほとんどないから、彼女の姿を見かけるのは、彼女がこちらのクラスへやってきたときぐらいだ。最近はめっきりと会話を交わすこともなくなった。花鈴のほうがおれを意図的に避けている──そんなふうにも思えた。
 こわいのかもしれない。おれのことが、じゃなくて、おれと話すことであのときのことを思いだしてしまうのが。
 菜月は、死んだ。おれたちの目の前で。もうすぐ一年になる。打ちのめされたおれたちは、それでも健気に立ち直ろうとしていた。おれはおれ、大樹は大樹のやりかたで。花鈴は真っ正面から菜月の死に向きあおうとして、もがき、苦しみ、自分の感情に溺れている。そう、溺れている──そんな表現がぴったりだった。
 聞くともなしに女の子たちの会話に聞き耳を立てていると、「北山」と「桜ケ丘」という単語が届いてくる。彼女たちの悩みもおれと同じらしい。仲間がいてホッとする。
 ハナシを振られた花鈴が笑いながら、「城南」と答えた。それがはっきりと聞こえた。
 おれはハッとする。城南高校──市内にある県立校。いちばん家からは近いが、おれにはちょっと高望みの学校。でも、必死になって勉強すれば、あるいはおれだって……。
 自分でも気づかないうちに、おれは花鈴の後ろ姿を見つめていた。おれの視線に気づいた花鈴が肩越しに振り向く。わびしげな笑みを浮かべた。まるで笑うことそのものが罪だとでも思っているのかのように。
 おれはあわてて目線を窓の外に戻した。心臓が高鳴っている。膝に置いた掌(てのひら)にじっとりと汗がにじんだ。
 花鈴とは幼稚園からいっしょだった。小学校も、いまの中学校も。高校もいっしょに行けるだろうか。
 そこまで考えて、おれは内心で自嘲する。どうして花鈴と同じ学校に行きたがるんだ? 別に違う学校だっていいじゃないか。北山か桜ケ丘、どっちかがおれにはお似合いだ。
 しかし、とおれの心のなかで別の声が反論する。花鈴がいない学校なんてつまらなさそうだ、と。普段、彼女と親しくしているわけじゃない。菜月があんなことになってから、ますます彼女との距離が離れてしまったような気がする。
 それでも、花鈴と同じ学校に行きたい、とおれは願った。花鈴の顔が見たい。教室じゃなくてもいい。グラウンドでも、廊下でも、トイレでも……いや、さすがにトイレはないか。
 おれはひとり苦笑を洩らす。教室のなかを歩きまわるクラスメイトたちの陰からこっそりと盗み見ると、花鈴がいぶかしげな面持ちでおれの様子をうかがっていた。おれと目が合うと、花鈴はもう一度、微笑んだ。満開の笑顔じゃない。が、彼女の笑顔がおれの心の奥までしみわたってポカポカと温めてくれる。その温もりが心地よかった。
 城南高校──花鈴が受験するんだったら、おれも……。
 幾層にも重なった雲は、強い陽射しを浴びて真っ白に輝いていた。