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蒼い無限

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1013 アノニマス 2017/02/02(日) 00:10:43 q9Lk7qN2f64y
俺にも少し話させてくれ。


フェイクも混ぜて話すが、11年前だな。過ぎてみれば、速かった。
俺は旧帝法学部を出て一部上場企業に勤めたが、
激務に2年弱で疲れ果てて地元に戻った挫折者になっていた。
まあ最後のほうは、睡眠時間が無さすぎて幻聴wwも聞こえたからなあ・・・
で、しばらく冬季五輪(そう、イナバウアーが話題になった)やら何やら見てぼーっとしてから、
求人誌をめくってリサイクル屋のバイトに応募した。
精神の酷使を離れて人間性を取り戻したい、夜は静かに眠りたいという条件面と、
まあ俺自身がスクラップになったwwwって気分が、俺をそこに連れてったんだな。
リサイクルの仕事に毀誉褒貶あるのは、俺も知ってる。
でも、勤めてみて間違いなく感じたのは、面白い仕事だった。
買取や配達で遠くまでトラックを乗り回し、いろいろな客の家の奥まで入っていろいろな人生を垣間見る。
重たい家具や家電製品を腰を入れて持ち上げて運び、商品化のために細々と手を動かす。
何でも鑑定団みたいな目利きと掘り出し物のドラマもあり、接客業ならではのにぎわいもあり・・・
個人的には、お勧めバイトの1つに挙げておきたい。

ともあれ、そんなお店に、俺より少し遅れて、綺麗な女の子が入ってきた。当時彼女が21、俺が24か。
俺の目には綾瀬はるか似のスラッとした美人(よって以降、「綾瀬さん」「はるか」などと書く)で、
店長から「剣道の段を持ってるそうだよ」と聞かされれば、
近づきがたいクールビューティーのように感じられるかもしれない。
が、笑顔を振りまける子であって、それと思い出すのは彼女が来てほど無くのこと。
書いてくれた手書きPOPの、描き込んでくれた絵が下手過ぎたwww
(ジャガーさんに出てくるニャンピョウみたいなやつなwwwww)
他には、アシナガグモと遭遇した時のリアクションがやかましかったのも良い思い出かwww
つまり、いわゆる隙が隠し切れない子で、もちろん俺も引き付けられた。
が、俺が「綾瀬さん」にからむ機会がどうだったかについて言えば、
ガテン作業がある俺と違って彼女はレジ周りによくいたから、残念ながら決して多くはなかった。


続きます。

1014 アノニマス 2017/02/02(日) 00:33:55 q9Lk7qN2f64y
俺にも少し話させてくれ、って書いたが全然少しじゃ済みそうもなかった。とにかく続き。


と言っても、俺が彼女と親しくなるチャンスはしっかりとあった。
接客業である都合交代で裏で食事を取ってたんだが、
タイミングによって俺と彼女の2ショットがちょこちょこあったんだなあこれが(神様サンクス!)。
で、「前職は何だったんですか?」と聞かれたり、「何でこの仕事をやろうと思ったの?」と聞いたり、
そういう中で(既に間接的に聞いていた話を含め)いろいろなことを直接に聞き出せた。
彼女は、短大を出て福祉の仕事に就いたが、いろいろあって辞めたこと。
そのいろいろには、オーバーワークや人間関係、元彼との別れを含むこと。
俺と似たような動機で、ここにたどりついたこと。
それと、「面白面倒くさい」店長への愚痴を俺と共有していたのもそうかな?www(店長サンクス!)
そういうあたりから、内側では意外と虚ろな精神生活を送っていた彼女は、
俺の経歴にも結構な共感と興味を寄せてくれて、そしてお互いにボケたりツッコんだりもできて、
徐々に仲があったまってきたわけよ。

そして数か月を経て、冬のとある日のこと。俺がジョギングをしてるという話から転がって、
「私も、一面の雪景色でも見れれば外に出たいんですけどね・・・」
俺は、普段から思っていたことを答えた。
「冬はロゼットが可愛いよ」
博識なおまえらには知ってるやつも少なくなさそうだが、少なくとも彼女は、屈託無く俺に尋ねた。
「ロゼットって何ですか?」
「見る人によっては、コスモスやネコより可愛いやつかな」
「動物ですか? 植物?」
と、ここで俺は、ふっと思いついた。思いついた上に、流れに任せて思い切った。
「今度の定休日に、一緒にロゼット見に行く? え~と、そう・・・I城公園あたりに」
地元I市のI城公園はI市役所のすぐ裏にあって、
繁華街から遠すぎず近すぎず、平日でも人がい過ぎずいなさ過ぎずという、格好のスポットでもあった。
はたして「綾瀬さん」は、少し驚いたような様子で即答は回避して、
「その日の、何時ですか?」
そうして都合(と、気持ち)の調整にしばらく時間をかけた後で、OKをしてくれた。
「せっかくだから、誰かに聞いたり調べたりしないでおいてよ」
俺はそう付け加えて、心の中でガッツポーズを繰り出したw

1015 アノニマス 2017/02/02(日) 00:52:17 q9Lk7qN2f64y
誰も読んでないみたいだが続ける。


「これ、うちの玄関先にもあるやつじゃないですか!」
というのが、約束の日に約束の場所で俺が実物を指さした時の彼女の感想だった。
「うん。雑草だよ」
「雑草ですね」
彼女は、わけが分からないと言った風な顔をしていた。
「これがどう可愛いかと言うとさ」
俺は、その1本の雑草の周りを歩きながら続けた。
簡単に言えば、ロゼットとは、雑草の一部が厳しい冬を乗り越えるために採るスタイルだ。
冷たい北風を避けるために、決して縦には伸びない。
一方、暖かい陽差しをなるべくたくさん浴びるために、その葉を横には伸ばす。広げる。
そうやって冬空の下で春を待って、寒がりが寒がりなりに頑張って生きてる姿が可愛い・・・と。
「でも、ここまで来なくても」
彼女がこう言うだろうのは想定の範囲内だったから、俺はあらかじめ用意しておいた言葉を使った。
「椿も見頃だからお得だよ。ほら、歩こう。あったまるから」
俺たちは、厚い靴をぼてぼてやって歩き始めた。
「ほらこれも、それも」
俺が指さし、彼女も見る。
「この街の冬景色も、風情があると思わないか? こういう連中が頑張ってるのを、あちこちで見られてさ」
「ふ~む・・・私みたいに可愛いですね」
「自分で言ったか」
俺は苦笑した。そしてこのツッコミは、「思い上がるな」という意味を外向きに備えつつ、
「言えるものなら、俺が言ってもよかったのに」という意味を含むものでもあった。
実際、彼女が言った通りのことを、俺は伝えたかった。伝わってよかった。
と、彼女はいたずらっぽく笑った。
「これでも謙遜したんですよ。私は、花にしか譬えられたことが無いですから」
「それを言ったやつは、口を開く前の綾瀬さんしか知らなかったんだなあ」
「褒めないとモテないですよ」
「脅迫するなよ」
彼女も笑って、俺も笑った。
笑って、あちこちのロゼットと椿を見ながら公園を歩いた。
野生のリスたちが、樹々の間を跳んでいた。
それから、空いた小腹を満たすために、ふたりで軽食を取って別れた。
ロゼット rosette と名付けられたのは、バラ rose のように見えるからだそうだ(判らないやつはググれ)。
作品名:蒼い無限 作家名:Dewdrop