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ヒトサシユビの森 3ナカユビ

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年配の看護師の話によると、診療時間が始まりエントランスの自動ドアが作動する頃合いを見計らったかのように突然いぶきが、玄関ホールに向かって廊下を駆けだした。
受診を待ちかねた十数人のお年寄りが自動ドアから入ってくるその間隙を縫って、いぶきは病院の外に飛びだした。
年配の看護師が玄関までは追ったが捕まえられず、代わりに若い事務員にいぶきのあとを追わせているというのである。
かざねはとるものもとりあえず病院を飛びだした。
病院の建物の周囲をひと周りしたが、いぶきも事務員も見当たらなかった。
病院周辺は水路と水田に囲まれて視界が開けている。どちらの方向に走っていったとしても、いたなら少なくとも何かしらの動きには気づくはずだ。
もし見つからない理由を探すとすれば、唯一低層の商業ビルが点在しているJR石束駅方向。
いぶきにとっては初めて訪れる石束の町。行くあてもなく病院を抜けだしたはずで、駅に通じる道など分かるはずもない。
かざねは思案を巡らせながらも、足は石束駅方面に向いていた。すると四つ辻を曲がったビルの陰で若い事務員が両手を膝につき、肩で息をしているのが見えた。
かざねは事務員に駆け寄って、いぶきの行方を尋ねた。事務員は呼吸を整えながらかざねに答えた。
「いぶきちゃん、道の駅に。すごい人だかりと一緒に道の駅に入っていくのを見ました。とりあえずお母さまにお知らせしようと」
「道の駅って?」
「駅の反対側、国道沿いにあります」
「いぶきは誰かと一緒だった?」
「いいえ、ひとりでした」

かざねはざわつく胸を抑えつつ、道の駅に向かった。
事務員から聞いた道順に従って、踏切を渡って道なりに進んだ。
やがて国道に突き当たり、それを左に折れるとほどなく駅前に到着。
駅前を過ぎてさらに進むと、「道の駅」と描かれた大きな看板が交差点に設置されていた。
道の駅は、看板の矢印が示す通り、すぐその先にあった。
ただ看板のある大きな交差点は、駐車場を求める車が列をなして押し寄せていて、交通警備員が車と歩行者に対し信号を守るように誘導棒を振り、ときには鋭い警笛を鳴らした。
先を急ぐかざねだったが、横断歩道の手前で待つことを余儀なくされた。
かざねが世話しなく足を動かして信号待ちしていると、かざねのすぐ傍に資材を積んだトラックが一台停車した。
「もしかして、かざね?」
不意に名前を呼ばれたかざねは、トラック運転手を見上げた。
声のトーンと涙袋のある大きな目元から、それが山本亮太だと瞬時にわかった。と同時にさまざまな記憶が、かざねの頭の中を駆けめぐった。
亮太は後続車のクラクションや警備員の誘導を無視して車を停止線に止めたまま、窓から首を突きだして続けた。
「かざねだろ。かざね、帰ってたのか」
かざねは信号機のシグナルを見つめたまま黙っていた。
亮太の顔を見たとき、封印したはずの5年前の記憶がフラッシュバックした。
山すそまで広がる田園風景。
この交差点から先の一区画は、以前玉井商店があった場所。仕事の帰り自動販売機でタバコを買うためだけによく玉井商店に立ち寄った・・・。
そしてあの日、さちや何が起こったのか。私はなぜ逮捕されたのか・・・。
「俺、今、坂口さんのところで働いてる」
「ごめんね亮太。今急いでるから」
かざねは信号が変わるのと同時に横断歩道を駆け抜けた。亮太はかざねの後ろ姿をルームミラーで追いながら、淋しい気持ちでエンジンを空吹かしした。