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daima
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シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -

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それに、一番嫌な役割である ギトギトの食器洗いを、あえてミサコが自分に選んだ事も 俺達はわかっていた。

そしてもうひとつ、ナナの嬉しそうな笑顔に、俺達は皆 やられてしまっていたのだ。



さっそく俺とツヨっさんは、ゴミ袋運びに取り掛かった。かなり高く山になってはいたが、こんな時ツヨっさんのリーチの長さが役にたつ。

重さ自体はそうでもなかった為、手際よく勝手口から運び出した。

カコはケラケラと、上手にナナを楽しませながら 衣類の山と洗濯物を片付けていった。

いい奥さんになりそうだと、ちょっと思った。


さすがなのはミサコだった。自宅でも余程家事の手伝いをしているのだろう。

みるみる内に食器や鍋はピカピカになり、どこで見つけてきたのか、掃除機を手にコンセントを探している。


「どいてどいて〜!仕上げするでぇ〜!!」


いい奥さんにはなりそうだが、尻に敷かれそうだと ツヨっさんは思った。

おおかた掃除が片付いた所で、ミサコがナナに聞いた。


「そう言えばナナちゃん、お母さんは何時頃に帰ってきなるん?」

「旅館だから、夜遅いよ〜。十時すぎたくらいかなぁ。」

「御飯は?御飯はどうしとるの?」


ミサコが、いつになく真剣な顔をしている。


「ママが帰って来てから、一緒に食べるよ。美味しい物、いっぱい持って帰って来てくれるから。それまでは、お菓子食べてる。」


この子は、この小さな女の子は、友達もおらず 母親が帰って来る夜中まで、このゴミに囲まれた部屋で、給食から何時間も食事もとらず、たった一人きりで 今まで過ごしてきたと言うのか。

ミサコがナナを抱きしめた。小学生のガキが……と思われるかもしれないが、俺も自分が女子ならば同じ事をしていただろう。

後ろでツヨっさんが号泣していた事には、俺もカコも触れないでおいた。


「よし、お姉ちゃん達が何か作ったげるわ!」


ミサコが殆ど空っぽの冷蔵庫の有り合わせで、豚汁を作った。

負けず嫌いな俺も ジャーに残っていた冷ご飯で、キャンプで覚えたての焼き飯を作ろうとしたのだが、具材が見当たらずに ケチャップライスになってしまった。

いっそオムライスにしようとも思ったが、そんな腕も 卵もなかった。


「美味しそー!頂きまーす!」


豚汁と 具がハムだけのケチャップライスを、ナナは美味しい美味しいと食べてくれた。


〈ドリュドリュドリュドリュドリュドリュ……〉


四人で心地よい疲労感に浸っていた時、聞き覚えのあるエンジン音が外に響いた。

クロカン車独特のディーゼル音……パジェロだ。


「ジャカルタだ!」


隠れようとした時にはもう遅かった。ドアを開けるや否や 獣のような素早さで俺達四人を捕獲し、無言で一人ずつにビンタをお見舞いしていった。


「なに道草して、よそさんの家に上がっとんじゃお前ら!だいたいお前らみたいなもんが、勝手に火ぃ使って 火事にでもなったらどないすんじゃボケ!! アホみたいな事しとらんと、早よ家帰らんか!」


大人の事情からすれば、今回ばかりはジャカルタが正論だと思う。

俺達は、まだ小五にもかかわらず下級生の家に上がり込み、あろう事か ガスコンロまで勝手に使ってしまった。

ナナの為とはいえ 自分達もどこか後ろめたさがあったのも事実だ。この時ばかりは素直にジャカルタに謝り、解散する事にした。


だが、なぜこんな時間にジャカルタが? それもこんな裏道へ?


それらの疑問は、玄関を出た所で解決した。

パジェロの少し後方から、顔に笑みを湛えたドマソンがこちらを見ていた。

俺達は つけられていたのだ。

四人でナナの家に入るのを見届けたドマソンが、ジャカルタに告げ口をしたのだろう。

何よりも許せないのは、まだ二年生のナナを巻き込んでしまったこと。その思いが 俺達を家に着くまでの間、無言にさせていた。


だが、日曜を挟んでの翌週の全校朝礼、思わぬ事が俺達を待っていた。


「校長先生のお話」


司会の教頭のアナウンスで、校長がステージに登壇した。去年赴任してきたこの校長が、俺達は大好きだった。島井校長、まず名前がいい。

そして、前任の校長よりも半分程の時間で、わかりやすく端的にスピーチする 生徒の味方のような人だった。


「今から呼ばれる者は、ステージに上がりなさい」

「島井 大地、垣谷 剛志、本山 夏純、徳田 美佐子」


俺達は顔を見合わせた。先週のナナの家の件に違いない。反省はしているが、こんな全校朝礼で しかも校長にまで叱られるのか。

何事かと 全校生徒がざわめきたった。重い足取りでステージに登り、四人揃った所で 校長が話し始めた。

とても優しい 穏やかな声で。


「今日はあるお母さんから、君達に手紙を預かっている。私が今から代読するから、そこで聞きなさい」

「ハ、ハイ!」


『島井君、垣谷君。本山さん、徳田さん。先日はうちのナナの為に、我が家に来て下さって ありがとうございました。

あのような部屋を目にされて、さぞ驚かれた事と思います。

恥ずかしながら 仕事から帰宅した私も、大変驚きました。あの汚かった我が家が、見違えるように綺麗になっていたからです。

ナナが嬉しそうに、全てを話してくれました。

皆さんが、怖い六年生から自分を守ってくれた事。大きな垣谷君が、ゴミ袋をいっぱい運んでくれた事。

優しい本山さんが、洗濯物のたたみ方を教えてくれた事。美人の徳田さんが 洗い物をしてくれた事、抱きしめてくれた事。

そして、とっても面白い島井君が、美味しいご飯を作ってくれた事。

あんなに楽しそうなナナを見たのは初めてでした。そして、いかに自分が母親として 失格だったかを悟りました。

もう一度、ナナの為に頑張ってみようと思います。本当に、本当にありがとうございました』


手紙を読み終えた校長が、いっそう大きな声で続けた。


「君達は、この小学校の誇りです。生徒の皆さん、この四人に大きな拍手を送りましょう!」


割れんばかりの拍手だった。生まれてこの方 悪ガキ道をまっすぐに精進してきたような俺が、こんなに晴れがましい気持ちになったのは、生まれて初めての経験だった。


「朝礼が終わったら、校長室に来なさい」


ステージを降りる直前、校長が小声で俺達に言った。


「失礼します!」

「どうぞ、入りなさい」


朝礼が終わり、まだ何かあるのかと ワクワクしながら校長室に入った俺達。

だが、目の前に立っていたのは、意外にもジャカルタだった。


「岩田先生」

「はい!」


あのジャカルタが緊張している。


「君は、この子達を見つけたあの日、真っ先に殴ったそうだね」

「え!あ、はい。しかしそれは。」

「ナナさんのお母さんに聞きました。ナナさんが大変怖がっていたと」


ジャカルタの言い訳を諭すように話した後、校長は俺達4人の前に立った。そして。


「痛かったろう。校長である私の責任です。許してください」