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　ふと目が合うと俊介が『俺は知らないよ』とばかり肩をそびやかせて見せる、とぼけた男だが、なかなかにロマンティックな仕掛けを思いつく奴だ……。
「あの……お客様を差し置いて申し訳ないのですが」
「なにかしら？」
「この曲は僕たち二人にとっても思い出の曲なんです」
「うふふ……実は聞いてたわ、『メモリーズ・オブ・ユー』をリクエストするようにも頼まれてたのよ、もちろん喜んでリクエストさせてもらったけど」
「この曲をお二人の前で演奏できて幸せです、あの二人に仕組まれたようでちょっと癪なんですが、今日の演奏を僕たち二人にとってもメモリアルにさせて下さい……。」
　僕はポケットから指輪を取り出し、彼女の前に跪いた。
「僕と結婚してくれないか？」
　指輪の奴が僕の指先でも小躍りしてたんで、それを彼女の指に嵌めるのに苦労したっけ……。
　

　こうして数十年前の一本の間違い電話と『メモリーズ・オブ・ユー』は三組目の夫婦を生んだって訳。

　僕と彼女は夫婦デュオとして相変わらずパーティ会場での演奏を続けている、そして最後の曲は決まって『メモリーズ・オブ・ユー』。
　いつか四組目の夫婦が生まれるかもしれないと思いながら、いつも心を込めて演奏しているんだ……。