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尖閣~防人の末裔たち

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そうだった。ジグザグ航行を止めた後、おにぎりと缶詰が配られたのだった。古川は、足元の深緑色のビニール袋を拾い上げた。ビニール袋は厚手で、中を覗くと中には握り拳大の大きく丸いおにぎりが2個と、牛肉大和煮の缶詰、割り箸とペットボトルのお茶が入っていた。立って食べるのも食べづらいと判断した古川は、床に胡坐(あぐら)をかいて食べることにした。久々に座ると、ほっとしたのか思い出したように腹が空腹を訴えてきた。古川は1つ目のおにぎりを、一気に2/3ほど食べると、胸の支えを覚え、急いでペットボトルのお茶を流し込む。お茶を飲むために顔を上げた古川の目に、河田のタブレットが留った。古川は、残りのおにぎりを押しこむようにして、再びお茶を飲むと、立ち上がって手摺を握り伸びをする振りをしながら素早く下の様子を窺う。誰もいないことを確認した古川はハシゴの降り口にリュックを置いて、ハシゴを昇ってきてもすぐには見られないようにした。幸い、仲間の漁船との間には中国海警船が航行していて河田の仲間に見られる恐れはない。
ちょっとだけ。。。
 古川がタブレットの前に来る。日除けで覆われたタブレットは、横長に立てかけてあり、手前に外付けのキーボードがあった。古川は、タブレットの外周を指でさする様にしてスイッチの場所を探した。スイッチを入れると、画面に規則的に並んだ丸印が現れた。パターンロックだった。登録しておいたパターン通りに丸印を指で結ぶことによりロックが解除されるというセキュリティーだった。古川は、もう一度スイッチを押して、画面を真っ暗にする。そして体を屈めて画面を見る角度を変えてみる。「あった。」古川は声を押さえると、黒く光沢する画面に残った「L」を描く白っぽい筋が見えた。それは、河田が何度も指でなぞった跡だった、皮脂その他の汚れは、拭き取らない限り必ずと言っていいほど画面に残る。特に湿った潮風や微細な飛沫に晒されたこのタブレットでは、なおのことだった。しかし、それらはバックライトが点灯してしまえば殆ど気にならない。河田も特に不自由を感じずに使っていたに違いない。そして、古川は河田が操作を再開するたびに下から上へ画面をなぞっているのは見ていた。
 古川は、再びタブレットの電源を入れると、先ほど見たものと同じように「L」字を描くように丸印を結んだ。あっさりとタブレットのロックは解除され、画面が切り替わった。
「ん?」
表示された画面に古川は言葉を失った。これが河田が言っていたGPSなのか?でも様子が変だ。古川は一瞬だけ画面の中で何が起きているのかを理解しようとすることを拒絶しそうになった。いや、理解しなきゃ駄目だ。河田が戻ってくる前に。早く。まず何を表わしているのかを掴むんだ。古川は、ふと煙草が吸いたい。という衝動に駆られるが、一度息を深く吸うと、ゆっくりと吐くことで乗り切る。ふ~っと少しずつゆっくりと息を吐きだがら画面を左上から見て行く。そこにはレーダー画面のように様々な点と、その点の情報示す文字が散らばっていた。無機質でそれでいて見やすく必要な情報を素早く探し出せる洗練された記号と文字。ぱっと目立つ形は、尖閣諸島らしい。しかし位置がおかしい、尖閣諸島が左下にある。魚釣島にこれだけ近付いているのに、魚釣島は、かなり中心から離れている。しかも、点と文字をよくよく見ると、魚釣島に接近しているのは、数隻の船。多分これが俺達だな。そして、そこに接近してくる点があり、その横には「TIDA-03/P-3C_250kt/1000ft.270」と二段に表示されていた。TIDA-03は、那覇基地所属のP-3Cのコールサインだった。それが多分250ノット(約460km/h)で高度1000フィート(約300m)で方位270度へ向けて飛行しているということを示しているのだろう。。。これは。。。古川は息を飲んだ。ただのGPSでもなく船舶レーダーでもない。しかも取材で何度か見たことのある画面とそっくりだったが、古川は信じたくなかった。画面の中央を見ると。中心に目立つシンボルがあった。一般的には、これが自分の位置になるのではないか?全然今の場所と違っていた。そしてすぐ隣にある点の情報を見た古川は、真夏の日差しに容赦なく体を焼かれているのにも関わらず血の引くような寒気を覚えた。足が震えるような錯覚を覚えた。「ASAYUKI/DD-132_20kt...」DD132のDDは汎用護衛艦を示す。132は個別番号だ。「ASAYUKI」は紛れもなく護衛艦の艦名だ。つまり、すぐ隣には護衛艦「あさゆき」が20ノット(時速37km)で航行していることになっている。勿論古川のいる漁船からは見えない。護衛艦「あさゆき」は、佐世保を基地にする第13護衛隊に所属しているはずだ。2隻で行動する時は性能がほぼ同じ同型艦を優先して使う筈だ。ということは、「あさゆき」の隣にいる。即ち、この画面の中心のシンボルは。。。護衛艦「いそゆき」じゃないのか?
 なんてこった。取材で見たことがある画面と同じだ。。。河田達は、護衛艦「いそゆき」のCICをハッキングしている。。。古川は震える指でタブレットのスイッチを押して画面を消した。
 古川は、ハシゴの降り口に置いていたリュックを引き寄せると、何事もなかったかのように床に胡坐(あぐら)をかき、2つ目のおにぎりを口に含んだ。1つ目はあんなに美味しかったのに、何故か2つ目はパサパサでなかなか飲み込めない。おにぎりがパサパサしているのではなく、あまりの衝撃におにぎりを口にしても唾液が出てこないとに古川は気付くと、独り苦笑を浮かべる。
俺はとんでもない場所に立ち会ってしまったらしい。。。
心なしか、「ボー」というターボプロップ特有の爆音が聞こえてくる。画面に映っていたP-3Cなのだろう。。。そう、「いそゆき」のCICが言うんだから間違いない。。。
古川は深く溜息をついた。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹