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尖閣~防人の末裔たち

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 尖閣諸島を管轄下に置く第11管区海上保安部が保有するヘリコプター搭載巡視船は、那覇の海上保安部に所属する「おきなわ」と「りゅうきゅう」があり、いずれも「ざおう」の姉妹型であるが、「おきなわ」は定期点検に入り、それをカバーしていた「りゅうきゅう」が、尖閣諸島で「ざおう」と入れ替わるはずだったが、「りゅうきゅう」は機関の故障が発生したため数日前に那覇へ引き返していた。このため「ざおう」が代打に来たのだが、ほんの少し遅れたのだった。この守りの薄い時期に河田艦隊が出港することになるとは、第11管区も慌てたことだろう。上の連中は、せめてヘリだけでも間に合わせたいと考えているのだな。と昇護は思った。
「そうか、実は、途中の給油の必要の有無について悩んでいたんだ。やはり現地にいる石垣海上保安部の「はてるま」に給油を頼もう。」
巡視船「はてるま」は、「ざおう」より小型の巡視船で、専用の搭載ヘリコプターを持たず、ヘリコプター格納庫も持たないが、船の後部のほとんどが飛行甲板で占められており、ヘリコプターの発着及び燃料補給を行うことができる。実際に東日本大震災の時には、昇護たちの「うみばと」も「はてるま」から補給を受けて救援活動していたことがあった。
「はてるま」と聞いた昇護は、「はてるま」の兼子船長の顔が目に浮かび、任務への緊張の中にも急に懐かしさが込み上げてきた。
「そうしていただければ問題ありません。よろしくお願いします。」
浜田が立ち上がって、近藤に頭を下げた。それにならい、他のクルーも、座ったままではあったがとっさに近藤に頭を下げた。
「それと、万が一の際に「はてるま」で整備できるように整備班から、2名出してもらおう。問題ないな?それに万が一我々と数日合流できなかった場合を考えて、身の回りのものを持っていくように。」
近藤がいいアイデアだろ?と言いたげに尋ねた。
「はい。そのほうが助かります。お願いします。」
と、浜田が答えた。そもそも「うみばと」は、最大定員14名のアメリカ、ベル社製の中型ヘリコプターベル212型をベースとしているので、整備員が2名、工具、そして、6名分の荷物を積んでも全く問題がなかった。
「では、早朝から御苦労だがよろしく頼む。以上、解散。」
近藤が立ち上がった。

 水平線が朝焼けの空との境界線を主張し、交わることが絶対にない美しさ、数分で水平線から太陽が顔を出し始まると、海面が陽光をキラキラと反射し、全く違った美しさを演出する。日の出の美しさを超える早起きした者でも数分しかみることができない朝焼けの境界美。その美しさを視界全体に感じ、昇護は軽く深呼吸をした。昨夜は、頭が冴えてなかなか寝付けなかったが、眠くはなかった。荷物を積み込み飛行甲板で伸びをすると、ほどなく
「航空機離船10分前」
の放送が流れた。
昇護達はベル212型ヘリコプター「うみばと」の前に一旦整列すると、それぞれの行動に移った。昇護は機体周りの点検を行うと左の座席に座った。右の座席では、機長の浜田が計器や、スイッチ類の状態をチェックしていた。
 機体前方で支援要員が見守る中、コックピットでは、右席の機長・浜田と左席の副操縦士・昇護がプリスタートチェックリスト読み上げと確認を相互に行い、エンジンをスタートさせる。キューンという軽い金属音が響き渡り音程が高まっていくとそれにワンテンポ遅れたように機体の上部に取り付けられた竹トンボの羽のような2枚のメインローターがゆっくりと動き出す。それに釣られて尾翼の頂部に取り付けられたテイルローターがメインローターを急かすようにメインローターよりも早く回転をしている。そうこうするうちにメインローターから発生した風切り音は、回転が高まるにつれて「ボトボトボト。。。」という特徴的な野太い音に変化していった。
 船橋ではヘリコプターの離船に最適な風の状況を作り出すために針路と速力を設定していた。周囲の船舶の動向を確認して安全を確保しながらの操船する。
「針路速力制定した。離船せよ。」
船内で航空管制を行う航空長からの指示により、飛行甲板にMH599「うみばと」を固定していた系止索が外され、機体前方に立っている誘導員が親指を上に上げて離船の合図を送ってきた。昇護がトルクを読み上げ、後方のキャビンから顔を出した機上整備員の土屋がエンジン計器を監視する中、機長の浜田は、風向風速と船の揺れ具合を確認して座席の左側のコレクティブレバーを引き上げる。機体がフワリと浮上したのを五感で感じつつも、きちんと上昇状態を昇降計で確認する。針は緩やかに上を向いて機体が上昇していることを示していた。確認した昇護は、「ポジティブクライム」と声を出して浜田に知らせた。
副操縦士の昇護は、
「MH599離船異常なし」
を航空長に無線連絡した。
「こちら「ざおう」了解。」
機長の浜田は、「ざおう」の船橋の横をかすめ飛ぶようにして「ざおう」の前方に出ると、そのまま「ざおう」追い越して上昇していった。
昇護は左手に見える朝焼けに包まれながら、遠く思いを馳せた。
-日本人の命を守ることが最優先。国民の命を守れなければ国を守っているとは言えない。そしてそれが一般の人々の平和と幸せに繋がる。美由紀。。。たとえプロポーズを断られて一緒になれなかったとしても俺は。。。もう構わない。お前と、そしてお前の未来の家族。。。俺の知らない男と将来築くであろう家族。。。その未来も、見ず知らずの人々の未来も守る。それが俺の俺達の使命だ。時々そういう男達に守られているということを思い出してくれるだけで満足だ-
決意を新たにした時、目に滲むものがあった。水平線から現れた朝日が強く、そして優しく昇護の目に光を注いだ。それはまるで、昇護の決意を盛り上げ、称えるかのごとく強さを増していった。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹