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死闘のツルッペリン街道

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死闘のツルッペリン街道
              針屋 忠通

















オレはスカイ。今日はダンジョニアン男爵の迷宮競技が終わった直後の話をしようか。
オレは、コロン姉ちゃんを、どう説得するか、まだ迷っていたんだ。
 迂闊にも、ダンジョニアン男爵の迷宮競技で一位になってしまって、どうもコロン姉ちゃんに変な自信がついてしまったようなんだ。
コロン姉ちゃんは、もっとボンクラだと思っていたけど、十七歳なのに難しい薬剤師免許と錬金術士免許の二つを持っていたんだな。
 それで商売すれば、一生食うには困らないはずなんだが。どうしても冒険屋を、やる気らしかった。おれも途方に暮れていたよ。ロザ姉ちゃんにコロン姉ちゃんの説得を頼まれていたんだ。コロン姉ちゃんに関しては従姉のロザ姉ちゃんは、うるさいんだ。また叱られるかとビビっていたんだな。オレは子供の頃からロザ姉ちゃんには頭が上がらないんだよ。
そんな時、狡っ辛いブレッダー・バゲットの奴と、娘のラバナがやって来たんだよな。
 ラメゲとルシルスも居た。
 そしてツルッペリン街道で死闘が起きたんだな。
(聞き手ノベラーY)

父さんは言った。
「三位」
 ラバナは言った。
「ルルと仲間達」
 父さんは言った。
 「二位」
ラバナは言った。
 「黒鷹」
父さんは言った。
 「一位」
ラバナは言った。
 「ザ・ワイドハート」
そして、ラバナは続けて言った。
 「居るわよ。居るよ、父さん、一位のザ・ワイドハートが」
ラバナはホットドッグをガブリと噛んで引きちぎるようにムシャムシャと食べながら言った。口から食べかすが飛んで、口の回りにマスタードとケチャップが付いたが構わなかった。
 マスタードが沢山付いて、ニンニクとショウガと赤唐辛子がたっぷりと入った、極太スパイス・ソーセージを挟んだ商品名、ハードコア・ホットドッグだ。
 今のように戦っている状況では陣中食として相応しかった。そう、ラバナ達は戦っているのであった。
 父さんは一番安いハンバーガーを食べていた。父さんはケチなのだ。
父さんは言った。
 「居るぞラバナ。確かに居るぞ。戦士のスカイ・ザ・ワイドハートに、騎士のマグギャラン。魔法使いのコロナ・プロミネンス。確かにスタジアムのジャイアントロンで見た顔だ」
ラバナは言った。
「父さん、彼等に、私達の護衛を頼みましょう」
父さんは言った。
「いいアイデアだぞラバナ。昨日ダンジョン競技のスタジアムに逃げ込んで追っ手を撒いたかいがあるというモノだ。丸一日の間、貴重な時間を潰したんだ、その埋め合わせが必要だ。二−八で賭けて損した。だが、あの三人を雇えば、この損出は最小限に食い止められそうだ」
 ラバナは八−二で賭けていた。そして見事に負けた。まさか、たった3人で、低レベルそうなザ・ワイドハートが優勝するとは予想できない結末だった。
ラバナは言った。
 「父さん、奴等は何時襲ってくるか判らない。青ゾリ兄弟の他にも雇っている可能性はあるのよ。私達が雇っていたランボール軍団は私達をトラップシティに逃がした後、青ゾリ兄弟にボコられて十五人全員が病院送りになったからね」
ラバナは携帯電話を見ながら言った。昨日、ランボール軍団が運ばれた先の「ダンジョニアン病院」から電話が掛かってきたのであった。
父さんは言った。
「商売仇とは言え、ここまでするとはブリディ・ブリリアント。恐るべき男よ」
ブリディ・ブリリアントは実に恐ろしい男だった。商売敵を企業買収でM&Aで吸収合併するためには、あらゆる手段を使う非情の男であった。ヒマージ王国で急速に勢力を伸ばしてるブリリアント商会の会長だった。

 その時、窓際の席から立ち上がった男女がいた。そしてスカイ達に近づいてきた。
スカイ達は、昨日行われたダンジョン競技で一財産を築いていた。スカイは冒険屋を、やっている十四歳の少年で、騎士崩れのマグギャランと、スカイの姉で魔法使い見習いのコロンと組んでいた。昨日のダンジョニアン男爵の迷宮競技が初めて三人で参加した冒険だった。
ロイド眼鏡を掛けた白髪で長髪の中年の男が言った。
「あーあー、君達。見ていたよ、見ていた、私は見ていた。君達は昨日のレースで優勝した第七パーティ「ザ・ワイドハート」のメンバーだね」
白髪の中年の男は温泉マークのアロハシャツを着て白いバミューダパンツを履いている。仁王立ちして長髪をかき上げている。
眼鏡を掛けた茶色い髪を二つに分けたソバカスの女が言った。
 「父さん、どう見ても本人達だよ。早く本題に入ろうよ」
 ソバカスの女は十七、八歳ぐらいだ。パイナップル模様のアロハシャツを着て白いプリーツの入ったスカートを履いている。
白髪の中年の男が言った。
「君達は、私の鋭い勘によれば冒険屋だね」
スカイは言った。
「まあ、そうだよ」
白髪の中年の男が言った。
「それでは、ダンジョンゲームで優勝した腕を見込んで、仕事を引き受けてくれないかな。私と娘は今、商売敵の刺客に追われているのだ。頼むよ君達。君達の腕に惚れ込んだんだよ」
スカイは、マグギャランとコロンと顔を見合わせた。
 スカイは言った。
「また仕事かよ」
マグギャランが言った。
 「いや、ここんところニーコ街では全然、冒険屋の仕事が無かったからな。仕事が在ると言うことは良いことだ。そう言えば、スカイ。お前が森人の血を引く娘から貰った仕事の依頼金を分けていなかっただろう」
 コロンが黙って手を出した。
マグギャランも手を出した。
 スカイは言った。
 「大した金額じゃねぇだろ」
 スカイが依頼料として貰ったメルプルの財布の中身は大した金額が入ってはいなかった。総計で一万六千五百二十一ニゼ(八千二百六十円五十銭)だった。
マグギャランは言った。
 「いや、金の事は綺麗に片づけておかなければな」
コロンも頷いて黙って手を出していた。
白髪の中年の男が言った。
「ところで内輪の話は止めて仕事を引き受けてくれるかね」
ソバカスの女の方が言った。
 「そうよ引き受けなさい。私達は、商売仇に追われているのよ。今の今しがたも、何処で奴等に襲われるか判らないんだからね」
 スカイは言った。
「どういう事だよ。そういや、こっちの名前は知っているようだが、オレは、お前達の名前を、まだ聞いていねぇぞ」
白髪の中年の男は言った。
「引き受けてくれるのかね。私の名前は ブレッダー・バゲットだ。ヒマージ王国の首都タイダーでバゲット商会の会長をしている。バゲットと呼んでくれ、よろしく」
 スカイの手をバゲットは馴れ馴れしく両手で握って握手した。
バゲット商会とは聞いたことがない名前だった。スカイはミドルン王国の出身だから隣とはいえ、ヒマージ王国の事は、よく判らなかった。ミドルンもヒマージも、かなりデカイ国だった。
 ソバカスの女は言った。