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　故郷に対する寂しさやなつかしさといった故郷感をかみしめていたのだが、その景色に紛れ込んでいる一人の人間の存在はかなり邪魔なものだった。その人は良く知っていて、善弥の人生で一番長い時間を共に過ごしてきた人ではあるが、今はそういうものを捨て去るくらいの嫌悪感を抱いている。手を振っている。目の悪い善弥にかすかにみえる程度の泣き顔も見えてきた。美しく、忘れないように目に刻んでおくべき風景は外側に向かってサアと流れていき、その中心の人間にだけ注目が集まる。動く口元からがんばって、行ってらっしゃいという言葉を察した。実に感動的なシーンがそこにある。親が旅立つ息子に電車の窓越しにエールを送る。ドラマにありそうなそんな感動的なものを素直に受け入れようとすると、心というか、心臓というかそこらへんが熱くなった。感動ではない、怒りに近い。どうにも作られたシーンに思える。なんとも腹立たしい。あいつは意図的に演じてるのではないか。誰もいない車内で善弥は声をあげた。甲子園のサイレン並みに続いた。電車は急ブレーキのような音を上げ、善弥の怒りを助長する。
　
　トンネルはまだまだ先だ。