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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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 そのまま女子更衣室を出て行くと思われた八嶋は、しかし、ドアの所で急に意を決したように振り返った。
「部長を狙うとかランチ会とか、そういう話、止めてもらえますか。女は不真面目だって、陰口叩かれる原因になるじゃないですか。迷惑です」
 大須賀がローズピンクの口をぽかんと開け、さしもの吉谷も唖然と固まる。神経質そうな顔にあからさまな憎悪の色を滲ませた八嶋は、しんと静まった部屋の中に苦々しいため息をひとつ残し、ドアの向こうへ消えていった。

「な、何なのあれ? 超ヤな感じ!」
数秒の沈黙の後、大須賀が、女子更衣室の外にまで聞こえそうな大声を出した。
「私たちがうるさかったからじゃない?」
「うるさかったら、さっさと用事済ませて出てけばいいじゃない! あの人、1部の……、誰だっけ? あったまくる!」
 なかなか横暴な口をきく大須賀は、いかにも八嶋とは合わなさそうだ。美紗が大須賀の問いに答えるべきか迷っていると、代わりに、吉谷が面倒くさそうに話した。
「事業企画課の八嶋さん。渉外班だから、あまり地域担当部とは縁がないよね」
 吉谷は、あらゆる分野の「情報収集」にそつがないのか、人事とは無関係の仕事に携わっているにも関わらず、美紗と同世代の八嶋香織のことをかなり細かく知っていた。話によれば、美紗より一年半ほど早く第1部に配属されたという彼女は、四年制大学を卒業し、国内の外資系企業で三、四年ほど働いた後、年度途中で防衛省に入った、ということだった。入省後はすぐに現職に就いて、今に至るらしい。
 ということは、八嶋は、美紗より年齢は数歳上ながら、入省年次では半年分ほど美紗の後輩、という複雑な立場になる。

「まあ、普段から愛想はないわね。私も何回か声かけたことあるけど、迷惑そうにしてたし。それにあの子、ちょっと感情の起伏が激しいところあるみたい。課長班長あたりとよく衝突してる」
「ふうん。気に入らないことがあると我慢できないんだ?」
 大須賀は頬杖を突いて口を尖らせた。前かがみになると、豊かすぎる胸がテーブルに触れそうになっている。