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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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 二度目は、その男と別れた時。相手が美紗に強い好意を寄せていたのは間違いなかったが、同級生のその彼は、あまりにも幼稚だった。無事に奨学金を得て勉強とアルバイトに勤しむ美紗を、傍らで見守ることなど、とうていできなかった。美紗が経済的な理由でそうしなければならないことを知った彼は、美紗に面と向かって「大学を辞めて自分と結婚すればいい」と言った。
 まだ実社会も知らない人間の手の中に、すべての将来を放棄して捕らわれろというのか。侮蔑的に聞こえたその言葉は、同時に、実家で自堕落に暮らす自分の父親を彷彿とさせた。初めて身体を許した相手に嫌悪感を覚え、会うのが辛くなった。ますます距離が開くと、三年次の夏休み前には、男のほうから離れていった。
 自分を好きだと言ってくれた人間でさえ、望む通りに自分を受け止めてくれはしない。至極当然の現実を、そんな形で思い知った。

 そして三度目は、独りになって半年ほど経った頃。母親があの言葉を口にするのを聞き、帰るべき家を失った時だ。

『美紗が生まれなければずっと働いていられたのに』

 過去にやってきたことも、夢も思い出もすべて、その一言によって否定されたような思いがした。正月休みも終わらぬうちに実家から大学の寮に戻る電車の中で、涙がこぼれるのを堪えることができなかった。おそらくそれが、これまで生きてきた中で最も情けない時間だった。
 四年次に入るまでに立ち直ることができたのは、歩むのを止めれば「終わり」だと確信していたからだろう。立ち止まれば、自分の未来を支え励ます者のいなくなった家の中に、閉じ込められるだけだ。

 それから後は、思い悩む暇すらなかった。生きる場所を探すために、就職活動をした。帰る場所がないという恐怖を忘れたくて、ただ働き続けてきた。立ち止まることも、逃げ出すことも、考えられなかった。

 そんな日々に、日垣貴仁は、安らぎをくれた。
 それだけで、十分だった……はずなのに