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夕闇の淵で

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僕はそれを洗濯ばさみから外すと、順にダイニングに入れた。すべて入れ終わって、母がやっていたように畳み始めた。思いのほか、むずかしい。バスタオルは大きくてお風呂場のタオル入れに入らないから、縦に4つに畳んで、その後横に3つに畳むの。そう母が僕に教えたのは、確か小学生のときだった。そうだ、妹と家の手伝いをしたときだ。母と妹と僕とでだれが早くたくさん洗濯物を畳めるか競争をした。
畳み終わったバスタオルを風呂場に置きにいく。タオル入れを開ける。そこにはあの時と変わらず、縦に4つ、横に3つ畳んだバスタオルが入っていた。

母が追い出したがっていた悪魔はなんだったんだろう。妹だったんだろうか。だけど、もしあの時その意図に気づいていたなら、妹は、小春は悪魔なんかじゃないと言えただろうか?
いや、言うべきだったのだ。そう母に怒って、小春に話しかけるべきだったのだ。学校や音楽のことで話があわないのなら、夕飯のことでも良かったじゃないか。

電話が鳴る。着信表示を見る。父親の携帯電話。「もしもし」「父さん?」「圭介か、お前が電話に出るなんて珍しいな、母さんは?」「いないよ」「出かけてるのか」「探さないでください、奈津子」「うん?」「って、手紙が置いてある」
沈黙が訪れる。父は絶句しているのか、それとも怒っているのか。

「お前、お父さんとお母さんが離婚したら、どっちに着いてくる?」
母が追い出したがっていた悪魔は、僕たち全員だったのかもしれない。妹と、そして、涙を流す母に言葉ひとつかけなかった、父と僕。

横浜スタジアム傍のコンビニ、確かローソンだったと思う。珍しく家族で食事に出かけた1年位前の秋に、通りがかったローソンで小春がレジの女の子と仲良く話していた。どうやら、中学生からの友人で、そこで働いているのは知っていたが、小春がそのコンビニに来たのは初めてだとか、そんな話が聞こえた。
あれから1年経ってる。あの妹の友人がまだ、しかも今夜、働いているとは限らない。でも僕は横浜スタジアム傍のローソンに立っていた。僕が唯一知っている、小春のともだち。名前すら知らない彼女を当てにする以外、今の僕にできることはなかった。
店内に入る。レジには眠そうなひょろ長い男が立っている。彼女について聞こうか。でも名前すら知らない。あせり始めた頃、雑誌棚の整理をしている妹の友人を見つけた。
作品名:夕闇の淵で 作家名:渡来舷