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からっ風と、繭の郷の子守唄 121話~125話

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 身体を張って老人を守った男が、立ち上がる。
その瞬間。パンという乾いた音と閃光が走る。
護衛の男を狙って、闇の中から襲撃犯がやみくもに発砲したようだ。
すかさず、護衛の男も撃ち返す。
闇の中での銃撃戦に、女たちのあいだから黄色い悲鳴が湧きおこる。
次の瞬間。どたりと、誰かが倒れる音がする。

 『大丈夫か、おい!』
暗闇からの呼びかけに、倒れた男が答える。
『大丈夫だ。弾がかすめただけだ。驚ろいて倒れただけで。怪我はねぇ』
闇のなかから、男の低い声が返ってくる。
不意を突かれたことへの怒りから、2人の護衛も、2発3発と見えない敵に
発砲する。
ふたたび、絹を切り裂く甲高い女たちの悲鳴が、店内に沸き起こる。

 「ばかやろう。やむくもに撃つんじゃねぇ、お前たち。
 真っ暗闇の中で発砲したって、相手に当たるはずがねぇ。
 だいいち。ここにいる関係のない人たちへ迷惑をかけるだけだ。
 そっちの襲撃犯も、つまらねぇ無駄な発砲をするんじゃねぇ!。
 関係ない堅気の人間に迷惑をかけるだけで、
 本末転倒の結果になっちまうだけだ。
 無駄に弾を使うんじゃねぇ。冷静になれ、そっちも」

 『修羅場を何度もくぐり抜けてきた人間は、どんな時でも常に沈着だ。
 シャカリキにテンションを上げて、無茶を何度も繰り返すのは、
 ただの意気地なしだ。
 慣れた連中は、冷静に敵を観察する。
 相手の弱点を探り出す。
 自分が傷つかず、相手の息の根を止めるチャンスをひたすら待つ。
 相手の弱みを見つけるまで、自分からは仕掛けねぇ。
 喧嘩場において、常に勝ち抜いてきた連中はしたたかだ。
 これからお前さんが相手にするのは、そういう場面を何度も
 経験してきたプロ達だ。
 どんな場合でも、まず急がないこと。
 そして絶対に慌てないことだ。
 万にひとつ。襲撃犯を表に連れ出せるチャンスが巡ってきても、
 決して急ぐな。
 時間が無いのに、急ぐなというのは矛盾した話だ。
 だがすべては、お前さんのためだ。
 襲撃犯の協力者か、内通者と思われてしまったら、
 お前さんの立場が危なくなる。
 あくまでも、偶然の結果がそうなったと思わせることだ。
 見破られないため、常に慎重に行動すること。
 わかったな。ウサギを2匹追うんじゃねぇ。自分が助かることだけ考えろ』

 岡本の言葉が、ふたたび貞園の耳へ蘇ってくる。
そろりそろりと前進していく貞園の後方で、護衛の男がカウンターへ
たどり着く。

「おかしいなぁ。電気が点かねぇところをみると、ブレーカーが落ちたかな。
 ママさん。ブレーカーはどこだ。裏口か、それとも厨房の奥か、どっちだ?」

 「厨房の奥だよ。あんたが今いる場所から、壁伝いに進んだ突き当たりに有る。
 背伸びをすればあんたの身長なら、そのままブレーカーへ届くはずだ」


 『護衛たちは、敵と味方を本能的に、瞬時に見破る能力をもっている。
 内通者や協力者と思われるような行動は、いっさいつつしめ。
 ブレーカーを落とすために使用した踏み台も、普段置かれている場所へ
 ちゃんと戻しておく必要がある。
 四つん這いで移動するときも、気配を感づかれるなよ。
 あせらず、息を潜めながら、亀のようにゆっくり前進しろ。
 途中で電気が点いてしまったら、作戦は即中止だ。
 その場へ伏せて、知らんふりをしていろ。
 実行犯が銃撃を受けていた場合、女のお前さん一人ではどうにもならん。
 女の力で、外まで運び出す時間もない。
 お前の協力する姿が、みんなに晒される結果になる。
 実行犯が傷ついている場合。作戦Cはその場で中止ということになる。
 自分自身を守るために、実行犯は見殺しにしろ。
 いいな、つまらないことを考えるな。
 仏心は、かえってお前さんの身の破滅を呼ぶことになる。
 頭を切り替えて、何もせず、じっとしていることが肝心だ。
 実行犯は、助からなくても構わない。
 だがお前さんには、無事に帰ってきてもらいたい。
 まぁ、その他にもいろいろ手を尽くしておくが、お前さんに明らかに
 できるのはここまでだ。
 頭にしっかり入れて、俺との約束を守って行動してくれよ。
 無事に脱出することができたら、今度は春物の新作ゴルフウェアーを、
 トラック1台ぶん、山積みで、ごっそり買ってやろう」

 『うまくいったら、トラック一台分のご褒美ですか!。
 うふふ、いやでも全身に力がはいります!』