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癒して、紅

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 そう、何も知らない。
プロフィールに自ら申告した項目だけの情報しかお互いを知らない。
トオルも玲來も実名は名乗ってはいない。
複数の違うネームを名乗っていたとしても可笑しくない世界での呼び名だ。
それで成立するのだからまったく愉快なお遊びだ。


トオルの此処でのハンドルネームは『真苅トオル』。
『玲來』も実名ではないSNSでのハンドルネーム。 


 ここでのトオルは、日記投稿すれば、一気にアクセスがある人気の作者だ。
その話題は、社会的なものもあるが、男と女の気持ちを語る言葉の綾は とてもうまい。甘酸っぱく、心狂おしく、ときめき煌めいて、どちらかといえば、女性の胸を焦がすものばかりだ。同性である男性からも 多少の羨ましさと納得の男前を感じられるものだった。
誰からも好意をもたれるのは、その懐への入り方を心得て人受けが良い。この言葉を男性にも適用できるのかは感覚的なものだろうが トオルは人気のある八方美人だ。

 投稿は地味で目立たなかったが 玲來のコメントを何処かしこで見つけることができた。
悠々と気の利いた言葉を書き添え、優しい微笑みを文章から感じさせる玲來もまた八方美人だ。だけど、玲來は、そんな自分に自信が持てないまま、日々に流されていた。

 そんなつまらない人と自覚していた玲來は、自分の変わるきっかけにしたい気持ちと、言葉の魔術師と憧れていたトオルに近づけそうな機会だと思い、トオルからの個人ツールにアクセスを試みた。
そうはいっても、パソコンやインターネットに詳しくない玲來にとっては 戸惑いの中の事。誰かに訊きたくても その目的は明け透けにはできないことだった。
 玲來は、社会的には 妻であり母である立場。趣味の範囲を越えれば、世間からは、冷たく不道徳のレッテルを貼られかねない。幸せを自ら壊すような失態はできないのだ。

作品名:癒して、紅 作家名:甜茶