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癒して、紅

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ふたりの物語



 五十代半ばを過ぎたトオルは、「これが僕の人生の過ごし方」と日々愉しむことに忙しい。
仕事。酒。旅。インターネット。彼女も数人… いや 出会う女性すべてが『インスタントカノジョ』。といっても すぐにやれるとか、即席の相手というわけではない。即座に彼女気分にしてくれる。楽しませることに余念がないのだ。もちろん、それを一番楽しんでいるのは、彼自身だということは否めない。

 トオルは、投稿コミュニティサイト《おとなの絵―日記倶楽部(えぇにっきくらぶ)》で 言葉を交わした玲來と 個人的に通信ツールを繋いでいた。
これも、トオルの網の糸の ほんの一本にすぎない。ほかにも 何本もの交際ラインを持っている。仕事の関係。趣味仲間との連絡。友人とのお喋り。気の置けない連れ。もちろん 恋愛感情の通う大切なラインもある。
その中で玲來との通信は、知人という程度の細いものだった。すぐに切れてしまうだろうと思っていたが、細くても絹糸のような艶としなやかさがあるように感じた。

 相手の玲來は、他のサイトのユーザー仲間に紹介されて この《おとなの絵―日記倶楽部》に入会した。が、残念なことに その仲間は別のトラブルに巻き込まれて退会してしまった。玲來は、自分も退会しようかと考えていたその時、読んだ日記がトオルの投稿だった。
「おもしろい…。まだこんなに楽しい話を読んでないのに退会するなんて勿体ないわ」
玲來は、もう少し此処の投稿を読んでみたいととどまった。
そして、玲來も何か書いてみることにした。

 始めは、読んだ日記へのコメントを書いた。わずかなコメントした言葉に返信が来て嬉しくなった。
玲來も 日常を短い文章に綴って投稿した。そして、反応があった。
何度目かの投稿に トオルからもコメントが届いたのだ。
玲來は、お礼の返事ともうひとつ言葉を添えた。
『お気に入りさん登録させていただきます』
玲來は、顔も素性もわからない相手にときめいた。たったひとつ、言葉という文字の羅列に魅入られてしまったとでもいうのだろう。

作品名:癒して、紅 作家名:甜茶