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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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糸のさき



心地よく眠っていた。風が鳴り、頬を過ぎていく。
ゆっくりと目を開けた。瑞は木にもたれかかって眠っていたようだ。なんだ、ここは。

森の中だ。木々の隙間から月明かりが降っている。草の匂い。木々が風にそよぐ音がざわざわと聞こえる。

「糸?」

立ち上がろうとした瑞は気づく。左手の薬指に、細くて赤い糸がくくられている。その先端は足元で千切れてて、ふわふわと風に舞っていた。
右手の小指には、同じような青色の糸がくくられている。それはからまり、たまになり、継ぎ足されながら深い森の奥へと続いている。

「なんだこれ…誰が…」

一人呟いた時、風がごんと吹きあれ、その風にまじって声が響いてきた。

――天命に続く糸だよ

「え?」

どこかで聴いたことのある男の声だった。含むように、笑っているように嬉しそうな声。それは風のなかをはっきりと届く。天から?

――赤い糸は、あなたの恋に。青い糸は、あなたの未来につながっていま~す

やはりどこかで聴いたことのある声だった。のんびりとした、邪気のない声。こいつ誰だっけ。ちょっと癇に障るのはなぜだろう。

「赤い糸の先、ないじゃん。千切れてるじゃん」

――それはあなたが、まだ運命の恋を知らないからですねえ。誰かを本当に好きになったこと、ある?ないよね?そうでしょ?