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からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話

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 螺旋階段を下りるとき。千尋がさりげなく康平の手に触れる。
急速に冷え込んできた夜気のなか。
濡れていた千尋の髪から、ジャスミンの香りがふわりと漂ってきた。
速度を緩めた康平が、身体の横に千尋のためのスペースをつくる。
横へ降りてきた千尋が、軽く身体を密着させてきた。

 「ホンマどす、油断できません。
 すこしだけどすが、寒くなってきました。うふふ」

 次に康平が目指したスポットは、南に面してひろがっている別荘地。
ひな壇状にひろがった別荘地は、工事が挫折したままだ。
むき出しの地面に、むなしく枯れ草だけが揺れている。
前方の斜面で針葉樹の林が、大きくポッカリ口を開けている。
額におさまる形で、かなたの夜景の様子を見下ろすことができる。


 「見えるのは、銘仙を織り出した伊勢崎市。
 最上級の『お召』を生んだ織物の街、桐生市の夜景も見える。
 糸を紡ぐ君にしてみれば、ここから見える夜景は、縁が深い。
 市街地を横切る、黒い帯がみえるだろう。
 あれは関東平野を斜めに下っていく、利根川です。」


 「人口20万人の伊勢崎市。12万人の織物の町の桐生市・・・・
 こうしてみると、どちらも小さな地方都市どすなぁ。
 夜景を見ていると、なんだか不思議な気分がしてきますなぁ。
 泣いたり笑ったりしもって、毎日を暮らしとるたくんはんの、
 そげな明かりの洪水どす。
 明かりの数だけ、人が居ます。
 人の数だけ、喜怒哀楽の人生があります。
 そないな夜の様子を、誰もおらん山奥でふたりっきりで見つめとるなんて、
 生まれて初めての体験どすなぁ・・・」


 「夜景を見るのは、生まれて初めてですか?」

 「阿呆をことを言いまへんの。恋をしたことくらいあります。
 恋人と肩を寄せ合って、ロマンチックな気分で夜景を見下ろすことと、
 自分の人生を見つめながら、夜景を見おろすのは、
 また、まったく別の問題どす」

 「人生を見下ろす?」


 「夜景は見下ろします。けど、人生は見つめるものどす。
 女は、開き直ると強い生き物どす。
 ウチが恋をしたのは、嵯峨野の美術大学へ通っとる頃のことどす。
 お相手はあんたもよく知っている英太郎はん。
 フルネームは小杉英太郎どす。
 いっぺんはお互いの、将来を誓い合いました。
 学生と社会人どしたがあたしたちは、そういう間柄になっておりました。
 あの日。突然の事がおこるまでは・・・・」

 「突然の事?。」

 「まるっきし予期せいなんだ、あたしの病気どす。
 これから話すことはあんたはんにとっても、大切な大人の話になります」