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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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10月なったら彼女は

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「私、1Gの榎木桃子と申します。以後お見知りおきを」
 更に沈黙。そして一気に堰を切ったように笑いを起きた。
「榎木さん、緊張しているのは分かるけど、何か時代劇みたいになってるよ」
 俺はつい突っ込んでしまった。
「榎木とやら表をあげい!」
 由布の代官チックな発言にもっと笑いが起こった。
「先輩たちモモちゃんかわいそうでしょ! モモちゃん天然なんだから暖かい目で見てほしいです」
「河瀬さん、なんだかんだであんたが一番ひどい物言いだぞ……ツッコミはこれぐらいにして、先に進めようか。自己紹介は終わったね。じゃあ2年と1年に分かれて、2年は委員長と副委員長、1年は学年委員長を決めてね。学年委員長は書記を兼務するのでよろしく」
 と、俺が促すと、それぞれ学年別に分かれて話合いをした。委員長は俺、副委員長は佐藤がなった。2年の話合いはすぐに終わった。まあ、去年の終わり位に誰が委員長になるとか自然と話になっていたからね、難しい話ではなかった。
 問題は1年生。なかなか決まらないようだった。その様子を2年は黙って見つめていると、どうやら決まったようだ。
「わ……私が学年委員長になりました。榎木です!榎木桃子です」
 今度は選挙カーのアナウンスのような発言にまた笑いが起こった。
「ほう、榎木ちゃんが学年委員長か。面白いことになりそうだね。じゃあ後は西内君よろしくね」
 と言いながら、俺の肩に手を置く由布。常任委員会はもう終わったといわんばかりに席を立ち、帰っていった。他のメンバーもそれぞれ帰り、俺と榎木さんが部屋に残された。
 榎木さんは先ほどまでの失態に顔を赤らめ、何も言えないでいた。うつむいて、俺と目を合わせようとしない。余程緊張しているのかな。という思いから、特に言葉をかけることなく榎木の前に椅子を持っていき、向かい合うように座った。
 すると、榎木さんは意を決したようにうつむいていた顔を上げ、俺と目を合わせた。榎木さんの顔をしっかり見るのは初めてだ。やっぱりどこかで会ったような気がする。でもじろじろ見つめると、またさっきのように挙動不審な動きをされるかもしれない。だから思い切って聞いてみることにした。
「榎木さんさ、前会ったことあったかな? なんか初めてのような気がしないんだけど」
「え? 覚えていてくれたんですか!」
 榎木は緊張状態から一変。満面の笑みを浮かべながら俺を見つめた。
「ん? どこかで会ったっけ?」
「はい! 去年の文化祭で占ってもらったんです」
 俺はタロット占いが得意で、よく放課後友達を占っていた。その流れでなんか有名になって、文化祭の時、占いの館をやろうとなったんだよね。そこに来たんだな。言われてみれば、占った記憶がある。
「そうだったね。占った。占った」
 文化祭で占った当時は生徒じゃなかった人が、今目の前にいる。不思議な気持ちになった。
「その時に、大宮高校に受かるっていってくれたんです。先輩の占い通り大宮高校に来ることができました。先輩のおかげです」
「いやーそれは榎木さんに実力があったからだよ。俺はそれを言っただけだよ」
「いえ、私はダメダメですよ。だって、その時不安で不安でたまらなかったんですよ。大宮を受験することを諦めようと思っていたんです。でも先輩の占いを受けて、やっぱり頑張ろうと思えるようになって……お礼を言いたかったんです」
 正直嬉しかった。お遊びのような占いが、そんな役に立つなんて。
「ありがと」
 素直な笑みをこぼした後、榎木も自然と笑顔が出た。さっきまでの緊張した面持ちとは違った自然な顔。その笑顔にドキっとした。
「榎木さんってさ、緊張しているときと今全然違うね」
「え? おかしいですか」
 また顔を赤らめてうつむいてしまった。
「ごめん違うんだ。今の榎木さんが本当の榎木さんなのかなって」
「ポンコツでごめんなさい……」
「そんなこと言っちゃダメだよ。今の方が絶対いい」
 榎木さんは、そんなこと言われたことないのかな。俺の言葉にどう反応すればいいのか分からなかったんだと思う。でも、そうやって、これまで榎木さんの本当の姿を誰も知らずにいたんだろうな。
「困らせてしまったね。ごめん」