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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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10月なったら彼女は

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プロローグ



「誰かさんへ」

 という書き出しから始まる詩を、俺は見つめていた。それは携帯小説サイトにアップされたある人の詩。俺は、その詩の作者とこれから会う。
 残暑が残る10月17日の昼。宮崎空港の駐車場に車を停め、到着ロビーに向かった。宮崎空港は、地方の空港だけあって羽田とは違い、すぐに到着ロビーに着く。そして出口も1つしかないため、迷いようがない。
 でも、これから会う女性を見逃す可能性があった。それはその女性と初めて会うからだ。写真では見たことがある。でも、写真と実物が違うことは往々にしてあること。
 特にプリクラだと全くの別人になってしまう。このマジックに引っかかった男どもも多いことだろう。幸いにして俺がもらった写真は普通に写メだった。今から会う女性は、プリクラで自分を偽って表現するということをしない素直さがあった。というより、そこまで考えが及ぶほど機転がきかないとも言えるかもしれない。
 どうして会ったこともない人が宮崎空港に降り立つのか。それはまず彼女と出会ったのは、携帯小説サイトだったから。そして彼女が栃木県に住んでいるからという理由だ。
 全くもって奇跡的な出会いだと思う。俺と彼女は今日から付き合うようになったから尚更だ。
 しかし、これは俺が彼女に惹かれた理由の1つにもなるんだけど、どうも彼女にはミステリアスな部分があった。
 彼女は、詩と絵をかく。今、俺が手にしているスマホに表示されている詩もその1つだ。俺も小説を書くが、どうも彼女の詩と絵を見ていると心がざわつく。
 忘れられない過去をどうしても思い出してしまう。

 20年ずっと忘れられなかった記憶
 忘れたくない記憶

 どうして彼女の作品に触れるとそういう気持ちになるのか分からない。ただ、20年忘れられなかったのと同じく、彼女の詩も記憶に留めなくてはならないと俺の心が訴える。だから自然とブックマークし、いつでも読めるようにしてある。俺のそういう行動はどこから来るのか全く分からなかった。
 そう彼女に思いを馳せているうちに、ぞくぞく到着ロビーに飛行機から降りた人たちが出てきた。いよいよ彼女が来る。そういう思いから緊張して待つが、いつまでたっても彼女が現れない。
 もしかして、写真と印象が全く違うために見逃したのか。俺も彼女も。そう思いながら、周りをキョロキョロした。でも、コギャル風の金髪女子とか、サラリーマンとかそういう人しかいない。明らかに彼女ではない。
 もしかして、飛行機に乗りそびれたのか。と心配している矢先、周りをキョロキョロしながらオドオドとした表情で歩いてくる女の子が現れた。
 その女の子を見た瞬間、身動きが取れなかった。20年前のあるとあらゆる記憶が脳裏を駆け巡る。そして静かに涙がこぼれた。
 俺はすべてを思い出した。
 そして、彼女は全てを察しているのか、全く動じずに俺を見つめる。そして、ある言葉を俺にかけた。
 俺に何が起こったのか。どうして俺が呆然と立ち尽くしてしまったのか。その説明をするには、20年前にさか戻らなければならない。
 そう今の俺を形作る発端となった20年前に……