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道化師 Part 2

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俺は、亮さんの前では子供になってしまう。虚勢を張る必要がないから、張っても見透かされてしまうから。
「もう、大丈夫だからな」
「ミユキの兄貴は?」
「警察だ。後は本職に任せればいい」
「わかった、亮さん痛くないのか?ホントに大丈夫なのか?後でちゃんと鷺沼さんに診てもらえよ」
「あぁ、わかってる」
少し落ち着いてきた俺は「珈琲いれてくる」と亮の傍を離れた。
キッチンで珈琲豆を選んでた俺の耳に飛び込んで来た亮の呑気な「ビールないか?」のセリフに「馬鹿か、怪我してるのに酒なんて呑ませられるか!」
豆をひきながら鬱憤を晴らす様に文句を言っていた。
部屋からいつ出てきたのか気付かなかったが、口元を抑え笑いを抑えてる鷺沼。
「ヒロくん、許してあげてね。亮、詰めが甘いから」
軽く見降ろされ亮は弾かれた様に反論する。
「詰めが甘いってなんだよ」
「何って、見たまんまでしょ。あんなヘナチョコに殴られてさ。情けない」
「情けないとまで言うか?もっと労わりの言葉は無いのか?ヒロは泣きながら心配してくれたのに、お前は」
「えっ、ヒロくん泣いたの?この馬鹿の為に」
「馬鹿とはなんだよ」
「龍成が亮とヒロくんのこと、親鳥と雛だって言ってたけど、怪我してヒロくん泣かせて、親鳥失格だよ。俺が代わりに親鳥するかな」
この痴話喧嘩、俺まで巻き込む勢いに
「ちょっとタンマ、喧嘩する程仲が良いのはわかったから」
やめてくれと哀願していた。
俺の言葉に二人して、恥ずかしげに視線を逸らした。鷺沼さんは頬まで染めていた。

二人は、少しは寝るようにと言い帰って行った。
リビングの明かりを消しミユキの側に行く。
穏やかな寝息に安堵する。スエットから覗く手足や首、至る所に包帯が巻かれ、見てるだけの俺まで痛みを感じる。安らかな眠りが心も体もほんの少しでも癒してくれればいい。
傷だらけの手に俺はそっと手を重ね、無傷ではないが、俺の傍に連れ帰ってきてくれた亮たちに感謝し、重ねた手からミユキの温もりを感じ離したくない思いが強くなってることに、少し戸惑う。だが、安心した心と体は、求めた温もりに睡眠を求め静かに瞼を閉じていった。


「ヒロ…」
微かに呼ぶ声。誰だ……。
「ヒロ…」
はっとしてミユキを見る。潤んだ弱々しい瞳が俺を見ていた。
「どうした?もう、大丈夫だからゆっくり休んでいいんだぞ。どこも辛くないか?」
「ヒロ、ありがとう。許して」
「ミユキが謝る事なんて何もない。俺は怒ってない。」
「ヒロを置いて…僕…ごめん…な…さい」
途切れながらも紡ぐ言葉は切なく、ミユキの不安そのままのようで、俺は隣りに滑り込み抱き締めた。
「もう、いいんだ。おまえを大事に思っているのは、俺だけじゃないってわかっただろ?だから、一人で悩むな、皆んなが助けてくれるし、叱ってもくれる。頼りになるおじさん達だろ?」
ミユキが少し笑った。俺もつられるように微笑むと
「ヒロ、可愛い」
可愛いなど、大人達からは揶揄う言葉では言われるが、それ以外ではあり得なかっただけに、恥ずかしくなる。
「もう少し寝るぞ」
「うん」
俺の肩に頭を預けるようにミユキは静かに目を閉じた。
ミユキの髪に軽くキスをし、俺も今度は暖かい温もりを抱いて安らかな深い眠りへと瞼を閉じた。

作品名:道化師 Part 2 作家名:友紀