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道化師 Part 2

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9


久しぶりによく寝た気がする。ミユキの温もりを感じ眠ったからだろうか。俺は人肌、温もりを求めているだけなのだろうか……かすかな不安を感じる。
はっきりと覚醒してくると、隣りの温もりがないことに飛び起きた。
寝室を飛び出しキッチンにミユキと鷺沼さんの楽しそうに話す姿を見つけ、駆け寄り腕の中に抱き締めていた。
「消えないでくれ……」
無意識に呟いていた。
躊躇いがちにミユキの腕が腰に回され、
「もう、一人で消えたりしないから、力抜いて苦しい」
俺は慌てて腕を解いた。
「ごめん……」
恥ずかしく、誤魔化すようにミユキの髪に指を絡ませ遊んでいた。
「ヒロ、いつまでミユキに絡んでんだ。顔洗って目を覚まして来い」
リビングのソファから呆れた木島の声に
「煩い、わかってる…」
もっと触っていたかった俺はため息を零し洗面所に向かった。
顔を洗ってリビングに戻ると亮の揄う言葉が聞こえてきた。
「学校では可愛くないヒロに戻ってるのか、進歩のない奴」
「可愛いいなんて思うのは、亮さんだけだ。朝から煩い、ゲラゲラ笑うな」
俺が喚くも、軽く躱され、そんな姿をミユキに見られ恥ずかしくてたまらない。
「そんなに拗ねるな。飯食ってしまえ。今日は二人で学校ズル休みだ。ゆっくりしろな。俺が許す」
「何が許すだ、偉そうに言うな」
キッチンでは、鷺沼さんまでが笑いを堪えながら
「俺が電話しておいたからね。安心でしょ~」
「鷺沼さんなら安心してズル休み出来る、亮さんだと先生信じないだろうしな」
「何だよ、信用ねぇな」
ソファに座る木島の後ろから抱きつくように顔を覗き込み
「どっか遊びに連れて行ってくれるとかはないのか?」
「今日は、ちょっと野暮用。夜に飯でも連れて行ってやるよ」
「野暮用って鷺沼さんも一緒?」
俺がキッチンに視線を向けると鷺沼さんが頷き、幸せそうに微笑んだ。
なんて、幸せな優しい顔をするんだろう、羨ましい。
「大人しく勉強してるかな。夜って店はどうすんだ?」
「今日は臨時休業、アキラたちも新婚旅行にでも行くかなって言ってたしな」
「新婚旅行って、あの二人一緒に住んで何年経つんだ、今更だろ?」
「何年経っても新婚さんなんだろ」
ミユキが話しが見えなくて、キョロキョロと視線を泳がしている。まるでリスかハムスターのようで可愛くて顔がゆるむ。

木島と鷺沼さんが出て行き二人だけになると何だかそわそわして落ち着かない。
「ゲームでもするか?」
「ゲームもいいけど、ヒロ、勉強教えて」
「えっ、マジで勉強するのか?」
「ヒロは、頭良いけど、僕全然アウトだから」
「何が苦手なんだ?」
「英語に数学に化学に物理に地理に」
「ちょっと待った、全部じゃないか!得意なのはないのか?」
「あ、あるよ。国語とか古文とか漢文とかはまぁまぁかな」
「得意科目でまぁまぁなのか?」
大きなため息が出た。
「何だよ、仕方ないだろ。勉強なんてする余裕なかったんだから」
拗ねた素振りを見せながらも、瞳は悲しげで唇を噛みしめる姿は、切ない。
「大丈夫だ。これからいくらでも勉強出来る。俺が教えてやるよ」
子供にする様に頭を撫ぜると
「僕、子供じゃない」
泣きそうな顔で拗ねる。
気分を変えようと行き良いよく立ち上がると
「何からいくか?一番ダメなのは?」
「数学と英語……あれは、宇宙のものだよ」
俺は、ここでやろうと言って寝室から教科書などを持ってきた。
しかし、呆れる程の酷さに
「明日、中学の問題集買いにいくか、先ずは基礎からだな」
文系はなんとか前に進めた。
昼には二人でキッチンに立ったが、ミユキは包丁を使った事もなく、仕方なくフライパンに放り込んだ食材を混ぜるだけで、俺が腕を振るう羽目になった。
「ヒロって、料理まで出来るんだ。何だか可愛くない」
「可愛いいなんて言われたくないからな。俺なんかより亮さんの方が凄いぜ。俺は、それを見て覚えただけだ」
「それでも、なんでもできて悔しい」
「俺も最初亮さんに今のお前みたいに悔しいと思ったさ。いくら頑張っても未だに追いつけない。諦めないけどな」
だから、お前も諦めるなと思う。

食事を二人で済ませ、少しゲームをし、ミユキは英単語だけでも覚えるとノートに書き出し始めた。俺は、今は教える事が無いなと、カクテルレシピに目を通していた。
静かな空間、ページをめくる音、紙の上を鉛筆が走る音、そして、二人の微かな息遣い、それらが穏やかで居心地が良いものになっていた。

夜の7時を回った頃、木島から連絡が入った。シャドウに二人で来るようにと。

シャドウに着き、ドアを開けるとそこには皆んなが集まっていた。
ミユキはシャドウに来るのは初めてで、キョロキョロと落ち着きがない。
「ミユキ君、いらっしゃい。あれから熱は出てないみたいだね。良かった」
鷺沼さんにテーブル席に案内され、「ありがとうございます、大丈夫です」と笑顔を見せる。
カウンターから木島が片手を上げ、
「今日は、俺の手料理でワイワイやるぞ。ヒロ手伝え」
俺は了解と、カウンターに入った。
鷺沼さんが皆を紹介している。
「この強面が龍成そして龍也の兄貴のサクヤ。龍也と一海は知ってるよね。こっちの小さいのが、茂そしてタモツ」
「紹介も済んだし、乾杯しよう」
皆んなの前に置かれたワイングラス、龍也と一海とミユキにはソフトドリンク。
龍也が俺もワインがいいと駄々を捏ねサクヤさんにコッテリと怒られている。誰もミユキの辛い過去には触れない。ホントにワイワイと亮の手料理を肴に話しが弾む。ミユキも一海と楽しそうに話しをしている。
だが、ミユキがあまり食べてないようなので、美味しいと言っていたオムレツを作って持っていく。
「ミユキ、オムレツ食べろ。サラダも作るか?飲み物は?」
熱が出てきたかもと髪をかきあげながら額に手を当てる。
「大丈夫。熱出てないでしょ。オムレツ少し食べていい?」
「全部食べてもいいから。遠慮するな」
頷きオムレツを少し取り皿に取って一口食べると
「ヒロのオムレツ美味しい」
と微笑む口元にケチャップがついているのを可愛いとペロリと舐め取っていた。
目の前でミユキの顔が見る間に真っ赤になるのを見て、周りを見ると一海まで真っ赤に、龍也はポカンとしていた。
慌ててミユキの手を掴みカウンターに逃げ込んできたのを木島が笑いながら迎えた。
ミユキが木島と話しをしているのを見た龍也がカウンターにやって来て俺を呼ぶ。
「ヒロ、いつから加納と……なんだ。」
言葉を濁すように言う龍也に
「いつからって春頃からだったかな」
俺の上に落ちてきた時の事を思い出し口元が緩む。
「何だよ、話してくれりゃいいのに、めっちゃ熱々じゃねえか」
「そうか、そうでもないだろ」
「よく言うぜ、あんな事しといて。俺でも一海に出来ないよ」
「俺、何かしたか?」
惚けて言うと
「可愛くねぇ、でも、一海と気が合いそうだよな、仲良くしてくれると嬉しいかな」
「あぁ、あいつの事よろしくな」
ミユキにも普通の学生生活を送ってほしい。

作品名:道化師 Part 2 作家名:友紀