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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「文書班長の吉谷女史あたりなら、どんな事態にも対応できますよ。彼女はフランス語も流暢だそうですから、連れて行く理由もできますし。何より……近寄り難い雰囲気なのが、今回の場合はうってつけかと思いますけど」
 最後のほうは声が小さくなった佐伯は、吉谷と目が合いそうになって慌てて首をすくめた。「確かにな」と呟く松永の傍らで、日垣は黙って佇んでいた。その姿勢の良い立ち姿を、美紗はそっとうかがい見た。彼は、じっと、吉谷綾子のほうを眺めている。口元にわずかに笑みを浮かべているように見えるのは、気のせいなのか。
「吉谷女史は、子供がいるから、夜は難しいんじゃないかな……」
 高峰が口ひげから手を離し、眉を寄せた。美紗は、言葉を発しようとして、急に息が詰まるのを感じた。私がご一緒します、と言ったら、周囲にはどう思われるだろう。レセプションに同行するだけのことに、何か深読みをするほど、みんな暇ではないはずだ。
 意を決したその時、小坂が、ガキ大将のごとく口を横に広げ、白い歯を見せた。
「8部でフランス語できる人を連れてったらどうです? 例えば……、あの子。見た目もちょっと迫力あるし、日垣1佐のことお気に入りだそうですから、きっと喜んで行きますよ」
 美紗は、開きかけた口を閉じ、思わず右隣の3等海佐を凝視した。早口で話す彼の言葉の後半部分が、頭の中でエコーする。
「ええっと、名前なんだったかなあ。ほら、ちょっと丸っこくて、声大きくて、結構ケバくて、胸がこうバーンとデカい……」
「そういう言い方やめろ」
 松永が睨みつけると、あやうく品のないジェスチャーを見せそうになった小坂は、胸のところに持ってきた両手を慌ててひっこめた。
「もしかして、大須賀さん?」
 片桐が口だけ動かすように囁くと、小坂は数回ほど小さく頷いた。
「なんでそんなこと知ってんすか?」
「情報収集はオレの得意分野だ。なにしろ情報局勤めだからな」
「うちに着任して、まだ四カ月じゃないですか」
 気心知れた仲の片桐と話す時だけ一人称が「オレ」になる小坂は、急にニヤニヤと顔を崩した。その横で、高峰が回覧中の部内誌をくるくると丸め始めたが、無駄話に興じる二人はそれに全く気付かず、ひそひそと軽々しい話を続けた。