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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「周りの人って、そんなに見ているものなんですか?」
 吉谷の話を遮った美紗は、変な質問をしたと後悔した。常に気にかかっていることが、うっかり口をついて出てしまった。吉谷は、美紗の顔を覗き込むように見ると、
「こういう話、結構興味あるんだ? なんだか意外」
 と言って、少しだけ口元を緩めた。美紗は彼女の言葉を否定しようとして、やめた。馴染みのバーで水割りのグラスを静かに傾ける男性を思い描いて動揺しているのを気取られるより、他人の恋愛事情を知りたがる品のない人間のフリをしている方がマシだ、と思った。
「いいのよ。聞きたいことあったら遠慮なく聞いて。もう当事者はいないから」
 美紗は、肩をすくめてみせる吉谷にどう返答したものかと思案しながら、冷えてきたドリアを口に運んだ。コクのあるホワイトソースがかかっているはずなのに、なぜか、何の味も感じられなかった。
「同期の子も相手も、ホントに無頓着でね。仕事中でも、目が合えばお互い満面の笑みで見つめ合ってるし、廊下に出れば長々立ち話して、毎日一緒に帰るんだから。時々、二人揃ってご出勤してくる日もあったのよ」
「そこまで、どうして分かるんですか?」
「だって、前の日と同じスーツ着てくるんだもん。男の方は自衛官だから、職場に着いて制服に着替えちゃえば分からないけど、同期のほうは私服だから……。着る物が変わってなければ、もう、思いっきりバレバレでしょ」
 いささか品性に欠ける話に、美紗のほうが赤面する。吉谷は構わず、胸の内に長い間ためていたものを吐き出すように、一人で話し続けた。
「それでもみんな、取りあえず見て見ぬフリしてたのよ。大人の対応ってやつ? でも、部長クラスの耳に入ったら『ジ・エンド』っていうのが、ここの慣例みたいね。プライベートな問題だけど、やっぱり職場の士気に関わるから、管理者としては黙認できないみたい」
「その……、『ジ・エンド』になったら、どうなってしまうんですか?」
 平静を装って尋ねたつもりの声が、わずかに震えた。
「大抵は、年度末を待って男側が異動、っていうパターンかな。自衛官のほうが配置先たくさんあるから。でもさあ、残る方だって嫌だと思わない?」
 吉谷が憂鬱そうに頬杖をつくのを見ながら、美紗は、わずかに身をかがめて胃の辺りを手で押さえた。初めて感じる、鈍く痛むような、不快感。それを助長するかのように、次々と不穏な疑問が湧きおこった。
 仕事帰りに、想う相手と時を共有するのは、許されないことなのだろうか。共に過ごす相手が部長職についている場合は、どうなるのだろう……。